リボヌクレアーゼ(読み)りぼぬくれあーぜ(その他表記)ribonuclease

デジタル大辞泉 「リボヌクレアーゼ」の意味・読み・例文・類語

リボヌクレアーゼ(ribonuclease)

RNAリボ核酸)のヌクレオチド部分のエステル結合加水分解する酵素生物界に広く分布RNアーゼ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リボヌクレアーゼ」の意味・わかりやすい解説

リボヌクレアーゼ
りぼぬくれあーぜ
ribonuclease

リボ核酸(RNA)の分子内リン酸ジエステル結合を切断する酵素で、RNアーゼ(RNase)と略記する。動植物から細菌、カビに至るまで広く分布する。代表的なものに、ウシ膵臓(すいぞう)RNアーゼA、江上不二夫(えがみふじお)らがタカジアスターゼ末から精製したRNアーゼT1がある。いずれも分子量1万強の比較的小さなタンパク質で、熱にきわめて安定である。そのアミノ酸配列、物理化学的性質、作用機序などが詳細に研究された。厳密な基質特異性を有するものが多く、RNアーゼAはピリミジンヌクレオチドに特異的であり、またRNアーゼT1はグアニル酸残基に特異的で、いずれもその3´-リン酸体を切断末端に生ずる。反応は二段階よりなり、第一段階ではRNA鎖中の標的残基の3´-リン酸と隣の残基の5´-ヒドロキシ基との間の結合を切断し、2´位と3´位の間で環状リン酸エステルを中間体として生じる。続いて加水分解により3´-リン酸末端を与えるが、生成物はモノおよびオリゴヌクレオチドで、無機リン酸は生じない。その厳密な特異性は、1965年ホリーらによるRNA配列決定の際の有力な武器となった。また、第一段階の反応は可逆的であるため、既知配列のオリゴヌクレオチドの合成にも利用される。

 RNアーゼの生理的意義については長い間不明とされていたが、近年、大腸菌をはじめとして一部の真核細胞においても、RNアーゼがRNA分子の高度にプログラムされた切断加工(プロセッシングあるいはスプライシング)に関与していることが明らかとなった。大腸菌では約10種のRNアーゼが確認されている。このうち、RNアーゼPとよばれるものは転移RNAのスプライシングに、またRNアーゼIやRNアーゼⅢはリボソームRNAメッセンジャーRNAなどのスプライシングに働いている。同じく大腸菌にはRNアーゼHとよばれる酵素があり、これは他のRNアーゼのように1本鎖のRNAを消化できず、DNAとのハイブリッド2本鎖を形成しているRNA鎖のみを切断する。その作用機構から、DNA複製過程におけるRNAプライマーの除去に関与しているとみられる。

 一方、RNアーゼPは単純タンパク質ではなく、分子量2万のタンパク質鎖と375残基のRNA鎖からなる複合酵素であり、驚くべきことに試験管内で解離したタンパク鎖、RNA鎖はともに単独でRNA分解活性を示す。同様の例が一部の真核細胞でもみいだされた。繊毛虫のテトラヒメナでは、35SリボソームRNA前駆分子中のイントロン配列(介在配列)がRNアーゼ活性を有し、自らをスプライスして除去する。1981年、チェックは、RNA分子自身が有するこのようなRNアーゼ活性を称してリボザイムRibozym, ribozymeと命名した。これは従来の「酵素とはタンパク質を基本構成成分とする生体触媒である」という生化学の基本概念を根底から覆すものとなった。

[入江伸吉]

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化学辞典 第2版 「リボヌクレアーゼ」の解説

リボヌクレアーゼ
リボヌクレアーゼ
ribonuclease, RNase

RNA分子鎖中のホスホジエステル結合の加水分解反応を触媒する酵素の総称.おもにエンドヌクレアーゼ活性を示すが,エキソヌクレアーゼ活性を有するものもある.基質特異性があり,RNAの塩基プリン体に特異的に作用するリボヌクレアーゼ U2(EC 3.1.27.4),グアニン特異的酵素リボヌクレアーゼ T1(EC 3.1.27.3),N1,U1ピリミジン特異的酵素としてリボヌクレアーゼA,非特異的酵素としてリボヌクレアーゼ T2(EC 3.1.27.1)などがある.バクテリア,動物,植物に広く存在し,各酵素はいずれも104~149個のアミノ酸残基より構成されている.リボヌクレアーゼAは一次構造の決定された最初の酵素である.[CAS 133737-96-9]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リボヌクレアーゼ」の意味・わかりやすい解説

リボヌクレアーゼ
ribonuclease; RNase

リボ核酸 RNAのリボースとリン酸基間の結合を加水分解する酵素をいい,その基質特異性によって RNaseT2 ,RNaseI ,RNaseT1 などいくつかの種類がある。 RNaseT2 は高等植物の葉,糸状菌,細菌,動物組織などに広く分布。 RNase Iは主として動物臓器に存在する。また,RNaseT1 もよく研究されている酵素で,タカジアスターゼ中には比較的多く含まれ,それから結晶として製出されている。

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栄養・生化学辞典 「リボヌクレアーゼ」の解説

リボヌクレアーゼ

 RNアーゼと略す.リボ核酸(RNA)のホスホジエステル結合を加水分解する反応を触媒する酵素.ヌクレオチドを末端から一つずつ遊離するエキソヌクレアーゼとヌクレオチド鎖の内部の結合を切断するエンドヌクレアーゼがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のリボヌクレアーゼの言及

【核酸分解酵素】より

…核酸分解酵素の種類は合成酵素よりもはるかに多く,生命維持のために必要な,きわめて多様な役割を果たしている。 核酸分解酵素は,まず基質の種類(DNAかRNAか)によって大きくデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)とリボヌクレアーゼ(RNase)に分けられる。また,核酸の切断される位置の塩基配列に高い特異性のあるもの(制限酵素),反対にほとんどないもの,また核酸分子の末端から順々に切断を行うもの(エキソヌクレアーゼ),中間を切断するもの(エンドヌクレアーゼ),あるいはまた二本鎖の核酸を切断するもの,一本鎖を特異的に切断するものなど,その切断の様式はさまざまである。…

※「リボヌクレアーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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