前4世紀のギリシアの彫刻家。生没年不詳。シキュオンの出身。アレクサンドロス大王の宮廷美術家として活躍。鋳像を得意とし,大王の各種の肖像をはじめ多数の作品を制作したと伝えられるが,確実に彼のものといえる原作はのこされていない。1849年トラステベレで発見された,身体についた汗やほこりをストリギリスという道具で搔き落としている運動選手を表した大理石像は,ローマ帝政時代初期にアグリッパの浴場の前に据えられていたと伝えられるリュシッポスの青銅像《アポクシュオメノス(搔き取る人)》のローマ時代の模刻だとみなされている(バチカン美術館)。この像は,古代人が〈小さな頭とほっそりした体軀〉と評したリュシッポスの彫像の特徴を示している。ほかにも,たくましい体軀を棍棒で支えて休息する《ファルネーゼ家のヘラクレス》(ナポリ国立考古学美術館),《弓を張るエロス》(カピトリーノ美術館その他)など,幾つかの大理石像が,リュシッポスの青銅原作からの模刻と推測されている。女性像では,露わにした上半身を左膝に載せた楯に映す《カプアのビーナス》(ナポリ国立考古学美術館)が,リュシッポスによってアクロ・コリントスのアフロディテの聖域のためにつくられた女神像からの模刻と考えられている。リュシッポスは多くの弟子を持ち,彼の影響は同時代および後代の彫刻の上に広く及んだ。
執筆者:中山 典夫
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…前5世紀末のペロポネソス戦争,前4世紀の絶えまないポリス間の対立・抗争を通じて,人びとの感情・思想はより現実的・人間的になり,宗教的関心もしだいに弱まった。この傾向を反映して,後期クラシックの彫刻家プラクシテレス,スコパス,リュシッポスらは,優雅で人間的情感にあふれる彫像を作った。
[ヘレニズム時代(前320‐前30)]
アレクサンドロス大王の没年ころから,プトレマイオス朝エジプト王国の滅亡までの時代をいう。…
…この技法は,大プリニウスによれば,シキュオンの彫刻家リュシストラトスLysistratos(前4世紀後期活躍。リュシッポスの兄弟で弟子)の創案とされ,彼は直接人間から石膏取りしたと伝えている。完成した彫像からの型取りによってレプリカを制作する手法も彼の創案と伝えられる。…
…アルカイク時代(前700‐前500)には陶芸および金細工の分野で卓越した作品を生み,ヤギ,兎,鳥などの動物文や組紐,波形の抽象文様で飾られた白地の陶器(いわゆる〈フィケルラ陶器〉)は,ギリシア各地だけでなくオリエントにまで輸出されていた。前408年に築かれ経済的に大いに栄えたロドス市は,東地中海域における美術の中心地ともなり,彫刻家リュシッポスや画家アペレスら多くの優れた美術家がこの地で活躍した。なかでもリュシッポスの影響はこの地に強く残り,ヘレニズム時代(前330‐前30)には,彼の作風を受け継いだ一群の彫刻家が,ロドス島内だけでなくギリシア各地,さらにはローマで活躍した。…
※「リュシッポス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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