古来,人間は,労働や運動の連続の過程で,途中に手待ちや息抜きをはさみ,仕事が終われば十分な睡眠をとり,連日の働きの後には仕事を休み,疲れをいやすくふうをしてきた。これは休息の自然の姿である。休息が早めにとれれば疲労は少なく回復は早く,遅くなれば疲労は大きく回復は遅れる。労働負担の大きさや,その持続する長さが等差級数的に増えれば,疲労の回復に必要な時間は等比級数的に増加するという。
動的な筋肉の緊張の繰り返されるエネルギーの消費の大きい労働や運動でも,同じ姿勢を持続しつつ行われるエネルギーの消費が比較的に小さい静的な筋肉の緊張の繰り返される労働の場合でも,休養の必要性は変わらない。しかし,前者と比べて後者の疲労は,〈神経(しん)が疲れた〉と表現されるようなぐったりした疲労感が残り,休息の内容やとり方には異なったくふうがいる。
実際の現場では,機械化が進みエネルギー消費が少なくなったということから,休憩時間が短くなり,密度高く単調に繰り返される労働が増えている。事務系の労働でも,事務機械の使用により以前の多様な仕事のしかたが単調な密度の高い繰返しの作業になり,しかも内容は責任が大きくなる。いずれも実働率は大きくなる傾向がしばしばみられる。しかも,筋肉の動的な緊張にとって代わった静的な緊張の持続は大きくなる。これらの結果,神経系の疲労が増し,労働者は以前よりも不快な蓄積した疲労感を訴えるようになった。これらを管理する人々の疲労も同様に増えはじめた。この場合は,勤務時間内・後の休息と休日の配置のしかた,軽い運動や気分の転換を含む休憩など,休養の内容(質)のくふうがいっそう必要になる。
休息とは,本来,労働者が唯一の生活手段である契約労働の拘束から解放されて疲労をいやし(労働力の再生産),娯楽,教養,能力の啓発,その他社会的活動などのために自由に利用できる余暇の時間であり,日本国憲法には〈健康で文化的な最低限度の生活〉(25条)の保障がうたわれ,この観点からとくに労働者の休息権が基本的人権の一つに加えられた(27条)。週休日制,年次有給休暇その他の諸休暇および休憩時間については労働基準法のなかで定められており,休憩は,6時間以上の実働で45分間,8時間以上の実働で60分の休憩時間を最低の限度としているが,これは実際には昼食に充てられている。一方,労働の種類ごとの至適な一連続作業時間の長さと休憩の長さ,休憩の回数と配置,休息のとり方なども研究され,事業所の自主制で実施されている。法的には,頸肩腕障害の予防のための通達にこれが生かされている。
執筆者:山田 信也+渡辺 章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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