フランス南西部、ピレネー山脈北麓(ほくろく)のオート・ピレネー県にある小さな町。標高400メートルの風光明媚(めいび)な巡礼地である。人口1万5203(1999)。1858年2月11日から7月16日まで18回、聖母マリアがこの町の貧しい少女ベルナデッドのもとに出現した。その結果、奇跡的な病気治療の霊泉が湧(わ)き出たという。これが「ルルドの水」として世界的に有名になった。現在、霊泉のある洞窟(どうくつ)の上に、新ゴシック風の美しい大聖堂が建てられ、毎年、世界各地から約500万人の巡礼者が集まる。そしておびただしい数の病人が運ばれてきて病気の治癒を求めていくが、少なくとも信仰、愛、忍耐、感謝という精神的な恩恵には浴するという。
[越前喜六]
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…フランスのグリジーやサン・ソブール,イタリアのフォルリ等の泉は新石器時代・青銅器時代から治療に使われた跡があるとされる。1858年聖母マリアが顕れたとされる南フランスのルルドの泉も,特に8月15日聖母の被昇天祭には病気の平癒を願う巡礼者でにぎわう。ギリシア・ローマ神話では自然の力を表す樹木,川,泉は,ゼウスまたはオケアノスを父とし,母なる大地から生まれたニンフたちが守るとされた。…
…たとえばフランスのシャルトルは中世期にはヨーロッパ最大の巡礼地であり,その地の大聖堂の真下には病者の心身をいやす泉があふれていた。またスペインとの国境沿いにあるルルドは1世紀ほど前にマリアの降臨という奇跡によって聖地になったところだが,そこにわき出る聖水はルルドの泉として知られ,巡礼者によって飲料・沐浴用に利用されている。これらの聖地の泉は必ずしも温泉とはいえないが,しかし熱湯浴を好む日本人と違って微湯浴を好む西欧人にとって,聖地における泉信仰はその心身治療的な機能において日本の温泉療法と類似する点のあることに注目すべきである。…
…使徒時代以後においては,奇跡は聖人たちの聖性についての神的保証とみなされることが多く,教会法のうちには奇跡の真偽認定のための手続が規定されている。近代におけるもっとも有名な奇跡は1858年南フランス,ルルドにおける少女ベルナデットBernadetteへの聖母マリアの出現と,その出現場所に湧出した泉による難病治癒である。1882年以降常設の医局が調査に当たっているが,1903年巡礼団付医師としてルルドを訪れ,みずから診察した死の患者の奇跡的な治癒を目撃したA.カレル(1912年ノーベル医学賞受賞)によって厳密な科学的研究への道が開かれた。…
※「ルルド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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