レッド・リスト(読み)れっどりすと(英語表記)Red List

翻訳|Red List

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レッド・リスト」の意味・わかりやすい解説

レッド・リスト
れっどりすと
Red List

絶滅のおそれのある野生生物種(絶滅危惧種)のリスト。世界全体については国際自然保護連合IUCN)、日本では環境省ほか地方公共団体やNGO非政府組織)などが作成している。

 IUCNは1964年に最初のレッド・リストを公表、1966年には種ごとの関連情報をまとめた資料(レッド・データ・ブック)を公刊した。IUCNが評価・選定した絶滅危惧種は危機の程度によっていくつかのカテゴリー(旧カテゴリー)に区分されていたが、カテゴリーの定義が主観的なものであったため、より客観的な評価手法が求められていた。それを受けてIUCN理事会は1994年に定量的基準を伴う評価制度を採択した。その後2001年にカテゴリーと基準が改訂され、以後はこの改訂版が用いられている。

 改訂版のIUCNレッド・リストカテゴリーは以下のとおりである。

(1)絶滅Extinct(EX):疑いなく最後の1個体が死亡した種(正確には分類群。亜種などの場合もある)
(2)野生絶滅Extinct in the Wild(EW):飼育・栽培下、あるいは過去の分布域外でのみ野生化状態で存続している種
(3)絶滅危惧Threatened
 このカテゴリーは絶滅のおそれの程度によって、次の3段階に区分される。

 (a)深刻な危機(後述の環境省によるカテゴリー名称は絶滅危惧ⅠA類。以下同じ)Critically Endangered(CR):野生で極度に高い絶滅のリスクに直面していると考えられる種
 (b)危機(絶滅危惧ⅠB類)Endangered(EN):野生で非常に高い絶滅のリスクに直面していると考えられる種
 (c)危急(絶滅危惧Ⅱ類)Vulnerable(VU):野生で高い絶滅のリスクに直面していると考えられる種
(4)準絶滅危惧Near Threatened(NT):現段階ではCR、EN、VUいずれの絶滅危惧カテゴリーの要件も満たしていないが、近い将来、これらのカテゴリーに合致する、あるいは合致する可能性が高いと考えられる種
(5)低懸念Least Concern(LC):上記のいずれのカテゴリーの要件も満たしていない種
(6)データ不足Data Deficient(DD):適切な情報がないため、分布や個体数などの状況に基づいて絶滅のリスクを評価できない種
(7)未評価Not Evaluated(NE):基準に照らして査定が行われたことのない種
 定量的基準としては次の五つがある:A 個体数の減少率、B 分布域の面積(分布域の極度の分断・縮小、個体数の減少等がある場合)、C 成熟個体の数(減少または極度の変動等がある場合)、D 成熟個体の数、E 将来の絶滅確率。

 IUCNレッド・リストは、2000年版が初めてインターネットを通じて提供された。2006年以降は毎年更新され、現在では関連情報とともにオンライン公開されている。最新の2022年版レッド・リストには、15万0300種以上の評価に基づいた4万2100種以上の絶滅危惧種が掲載されている。

[石井信夫 2023年7月19日]

日本のレッド・リスト

国内では、植物についてのレッド・データ・ブックとして1989年(平成1)に日本自然保護協会と世界自然保護基金(WWF)日本委員会が「我が国における保護上重要な植物種の現状」を、動物についてのレッド・データ・ブックとして環境省が1991年に「日本の絶滅のおそれのある野生生物―脊椎(せきつい)動物編」、「同―無脊椎動物編」を公刊し、これらに国内初のレッド・リストが掲載された。なお、このときの評価ではIUCNのレッド・リストに準じたカテゴリー(旧カテゴリー)が用いられたが、全国的にみると絶滅のおそれはないが地域的に孤立していて絶滅のおそれが高い個体群を把握しておくため、日本独自のカテゴリーとして「特に保護に留意すべき地域個体群」も設定された。

 1995年度からは環境省が、IUCNが1994年に採択した新しいレッド・リストカテゴリーと基準を援用して、動物についてはレッド・リストの見直し、植物については新たな選定に着手した。なお環境省は、IUCNレッド・リストカテゴリーのうち低懸念(LC)、未評価(NE)は採用しなかった。また、絶滅危惧に含まれるカテゴリーを絶滅危惧Ⅰ類(IUCNのCRとENに相当)とⅡ類(VU)に、さらに前者をIA類(CR)とIB類(EN)に区分し、分類群によってⅠ類とⅡ類の区別だけを行えるようにした。データ不足(DD)については、IUCNとは異なり、「容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行しうる属性を有している」という条件を付した。また、最初のレッド・リストの考え方を引き継ぎ、「絶滅のおそれのある地域個体群」のカテゴリーを設定した。基準についても、数値データがなく評価がむずかしい種が多いことから、定性的要件と定量的要件を組み合わせたものとした。

 そして1997~2000年度(平成12)に、哺乳(ほにゅう)類、鳥類、爬虫(はちゅう)類、両生類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、その他無脊椎動物(クモ形類、甲殻類等)、植物Ⅰ(維管束植物)、植物Ⅱ(維管束植物以外:蘚苔(せんたい)類、藻類、地衣類、菌類)の10分類群ごとのレッド・リスト(第ニ次)を公表した。

 2002年度からは、IUCNが2001年に採択した改訂新基準に沿った2回目のレッド・リスト見直し作業が始まり、2006~2007年度に同じ10分類群のレッド・リスト(第三次)が公表され、2008年度からは3回目の見直し作業が始まり、2012年度に同じ10分類群のレッド・リスト(第四次)が公表された。なお、カテゴリーは1回目の見直しと同じで、以後も変更はない。

 2015年度からは、生息状況の悪化等によりカテゴリーの再検討が必要な種について、時期を定めず随時見直しが行われ、第四次レッド・リストの改訂版として2020年度(令和2)まで5回、見直し結果が公表された。最新のレッド・リスト2020では約5万8000種の評価に基づいて3716種が絶滅危惧種に選定されている。

 以上のほかに、2012年度からは環境省と水産庁による海生生物を対象としたレッド・リスト作成が開始された。環境省は魚類、サンゴ類、甲殻類、軟体動物(頭足類)、その他無脊椎動物の5分類群、水産庁は同庁が資源評価を行っている種を担当した(魚類、軟体動物、甲殻類、および二国間・多国間協定で資源評価されている大型鯨類以外の小型鯨類)。2017年度の公表結果によれば、環境省担当の分類群で56種(過去に未評価の443種中)が絶滅危惧、水産庁担当分では1種(94種中)が情報不足と評価されている。

 2020年度からは全体の見直しが進められており、海生生物を含む第五次レッド・リストが2024~2026年度に公表される予定となっている。なお、この見直しから定性的基準は用いられなくなり、すべての分類群について定量評価が行われることになっている。

[石井信夫 2023年7月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例