体内に維管束をもつ植物群の総称で,シダ植物,裸子植物および被子植物を含む。ド・カンドルA.P.de Candleが1813年に非管束植物cellularesと対比させて用いたが,そちらの方は流布しなかった。しばしば高等植物と呼ばれることがある。
かつて,植物界を花の有無によって顕花植物と隠花植物に二分する分類法があった(ブロニャールA.Brongniart,1843)。比較器官学の立場から花は〈茎頂に胞子葉が密生したもの〉と定義づけられるので,隠花植物に属するシダ植物の中にも一種の花を咲かせるものがあることになる(例,ヒカゲノカズラ,トクサ)。このため顕花植物と隠花植物の区別が厳密には不可能であると考える立場から,種子の有無により種子植物と胞子植物に分類する法が提唱された。現生植物に関する限り,種子植物は裸子・被子植物のみを含み,明確に定義づけられる。ところが,種子の起源を化石上の例証から考えると,胚珠(種子のもと)は大胞子囊を大胞子葉または他の葉性器官が包みこみ,珠皮をつくることにより成立したと考えられる。この観点に立てば石炭紀の鱗木類(シダ植物)に属するレピドカルポンは胚珠の一祖型と見ることもできるので,いわゆるシダ植物にも種子があるということになる。このため,化石植物をも加えると種子植物の範囲が厳密でなくなる。一方,植物の葉に大葉と小葉の2型があり(ジェフリーE.C.Jeffrey,1903),その系統的な成立過程が異なるという考え方も生まれた(ツィンマーマンW.Zimmermann,1930)。この考え方からは同じシダ植物でも,小葉をもつヒカゲノカズラ類(小葉類)と大葉をもつシダ類(大葉類)は別系統の進化の道を歩んできたことになり,さらに,裸子植物も小葉と大葉をもつ別系統の植物群があるという見方も現れた。こうして,顕花・隠花植物,種子・胞子植物,シダ植物,裸子植物という分類群の定義が困難になったり,系統分類としての不合理性が唱えられたりして,それらをひとまとめにして,維管束植物として扱い,その中を系統的観点に立っていくつかの綱に細分した方が自然であるという気運が生まれた(イームズA.J.Eames,1936)。
従来のシダ・裸子・被子植物という分類は,胞子段階,胚珠の露出段階,胚珠の被子段階という進化の段階によって分類したものであり,進化の道筋を表現する分類法ではない。それらの中にどのような系統が存在するのか,現在,定説といわれるものはないが,いずれにせよ,維管束植物としてまとめておいて,その中にいろいろな系列を提唱できるという点では,維管束植物という分類群は,便利であるとともに自然である。
執筆者:西田 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
維管束をもった植物群のことで、管束植物ともいう。緑色植物のなかで、シダ植物には花とよばれるはっきりした器官がなく、種子を生じないので、普通は種子植物とは区別されるが、ともに陸上生活に適した体制として、よく発達した維管束をもつので、これを一つにまとめて扱おうとする分類群である。スイスの植物学者ド・カンドルが『植物学基本』(1813)で初めて提唱し、植物界を二つに大別した。その方法は、シダ植物と種子植物を維管束植物Vascularesとし、コケ植物、菌類、藻類、地衣類を細胞植物Cellularesにまとめるものであった。しかしコケ植物にも茎と葉があり、茎の中心部には維管束に相当する細長い細胞群(道束)がみられ、一応陸上生活に適した体制をもつと考えられるが、シダ植物以上の高等植物に比較して、まだその分化の程度は低く、維管束植物とはいえない。維管束植物では、有性世代と無性世代の交代する生活環がみられ、とくに無性世代はよく発達して、葉と茎がはっきり分化した地上部をもっている。胞子は葉に生じるが、種子植物では胞子葉としての特別な働きをもつようになり、小胞子葉として雄ずい、大胞子葉として雌ずいが分化し、これが集まって花をつくる。配偶体を生じる有性世代は極端に小さく、無性世代に寄生する。一方の細胞植物は異なった分類群を含むので、扱いに問題はあるが、維管束植物は系統分類上のまとまりがあり、シダ植物、裸子植物、被子植物を一括して扱うときには便利なので、よく用いられる。
[杉山明子]
…シダ植物および種子植物の茎・根・葉などの器官の内部を貫く条束状の組織系。これらの植物はそのため維管束植物と呼ばれ,維管束をもたないコケ植物や藻類などと区別される。陸上植物は水中生活をしていた緑藻類のあるものが地上に侵出して進化したものであると一般に考えられ,最も古い維管束植物は4億年前の地層から出土している。…
…彼はコケ植物中の蘚類,シダ植物,裸子植物,被子植物を含めた。ここから蘚類を除けば,すべて真の茎と葉があり,維管束が分化しているので,この群に対しては維管束植物と呼ぶことができる。コケ植物のうち,苔類を葉状植物に入れ,蘚類を茎葉植物とするのは不自然である。…
…とくに定着した定義があるわけではない。ふつうはほぼ維管束植物の同義語として用いられる。ときには顕花植物または種子植物だけをさしていう場合もある。…
…古生代から中生代にかけて栄えた群で,現生は5~7属約1000種。維管束植物は単元的に進化してきたと考えられていたが,葉の系統発生などに指標されるように,小葉植物は大葉性の植物と別の系統に属することがわかってきた。植物が陸上に進出してきたのは約4億年前のシルル紀のことである。…
※「維管束植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新