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ロマン主義美術 ロマンしゅぎびじゅつRomantic art

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ロマン主義美術
ロマンしゅぎびじゅつ
Romantic art

新古典主義美術にみられる形式主義に対し,個性を尊重し,知性よりも感情を重視した美術様式。 18世紀末から 19世紀前半にわたって全ヨーロッパで行われた。建築ではギリシア・ローマ建築を否定し,新ゴシック様式 (→ゴシック・リバイバル ) が誕生。彫刻では自由で躍動的な様式を発展させた。絵画においては美術史上のロマン主義の中心的存在として展開され,イギリスでは W.ブレーク,J.コンスタブル,J.ターナーらが神秘的自然を表現し,フランスでは A.グロ,T.ジェリコーを経て E.ドラクロアにおいて大成した。ドラクロアは奔放な色彩,流動的な筆致,劇的な主題と構図を用いることによって新古典主義と対決,ロマン主義の勝利を導いた。ドイツではナザレ派が誕生,P.ルンゲ,A.リヒター,C.フリードリヒらの特異な汎神的風景画が現れた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ロマン主義美術
ろまんしゅぎびじゅつ

哲学、文学におけるロマン主義に対応し、そのなんらかの影響下に、また同時に18世紀の美術の独自な延長線上に、18世紀末から19世紀前半、とくに1820年代から40年前後にかけて、ヨーロッパ各地で多様な展開をみせた美術をいう。しかし、本来は精神的様態としてとらえられるロマン主義の表現はきわめて多岐にわたり、他の美術上の流派、運動のように、様式、方法の問題として原則的にとらえることは不可能である。たとえば、「無限的風景」を描くフリードリヒは緻密(ちみつ)な写実的方法を用い、ドラクロワたちの手法はバロック的である。また主題、テーマは、過去の歴史的事件からジェリコーの『メデューズ号の筏(いかだ)』(ジェリコー)などの現実的事件に及び、文芸的素材としては、神話、騎士物語をはじめ、ダンテ、シェークスピアから同時代のロマン派文学に至る広範囲にわたり、さらに自然の風景や動物、異国情緒的風俗など、多様な主題から取材され、各芸術家がそれぞれにみいだしたロマン主義的解釈が与えられている。夢、想像力、狂気、悲劇、崇高美、動物的生命力など、さまざまなロマン主義的観念と想像力がそれらの主題の選択にみられる。
 ロマン主義美術への傾向は、情緒性、想像力、牧歌性を求めた18世紀の美術そのものに内在し、ワトーの牧歌的な雅宴画にも、ゲーンズバラたちの絵画情趣(ピトレスク)的な風景画にも、またやはり18世紀に流行した「廃墟(はいきょ)の画(え)」にも、ロマン主義の萌芽(ほうが)がみられる。直接的な先駆者としては、夢魔の世界を描いたフューズリ、幻視的な詩の世界を描いたブレイク、やはり魔的な人間精神をみいだしたゴヤ、風景のなかに無限へとつながる幻想を発見したターナーたちをあげることができる。古典派の巨匠ダビッドは、『マラーの死』などによってしばしば死を主題として扱い、彼の弟子たちも、ナポレオンを題材とする戦争画で、死やその他の人間の極限状況を扱い、英雄主義や異国情緒趣味を喚起した点でロマン主義の傾向を内在させる。こうして19世紀初頭、同時代の文学や美学の強い影響下にさまざまな形でロマン主義美術が各国に生起する。イギリスのコンスタブル、ターナー、ドイツではフリードリヒやルンゲなどの名をあげることができるが、単に歴史、文学、現実の事件にロマン派の題材をみいだしただけではなく、17世紀美術の影響下に、明暗や色彩の対照、ダイナミックな劇的構図などに、その主題にふさわしい絵画的方法をみいだしたジェリコー、ドラクロワたちによるフランスのロマン派が美術史的にはもっとも大きな役割を担った。1819年サロン出品のジェリコー『メデューズ号の筏』、1822年サロン出品のドラクロワ『ダンテの小舟』(ドラクロワ)とが、以後約20年以上にわたって古典派と対抗しつつ白熱的に燃焼したロマン主義運動の出発点となった。しかし、このドラクロワと対抗し続けたアングルの作品も、『オシアンの夢』(1813)がロマン主義を内在させていたことでわかるように、ロマン主義は精神的、心理的なモードとしてこの時期を支配していた。ロマン主義は、1840年代から自然主義、印象主義の台頭によってしだいに終息してゆくが、たとえばフランスではシャッセリオやギュスターブ・モローによって、イギリスではラファエル前派によって、ドイツではベックリンたちによって、世紀末の象徴主義へと展開した。[中山公男]

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