翻訳|wire rope
鋼の素線(ワイヤ)を撚(より)合わせてつくった綱。鋼索という場合,ワイヤロープを指すことが多い。ただし長い鋼索がつり橋などのつり構造物の主部材や,ケーブルカー,ロープウェーなどに用いられるときケーブルcableと呼ばれるが,これには撚り合わせてつくったロープケーブルのほかに,ワイヤを撚らずに平行に束ねた平行線ストランドを用いる平行線ケーブルもある。いずれにせよ,ケーブルは引張力しか受けもてない部材として扱われる。
ワイヤロープは構造物,索道,巻上機械,運搬機械などをはじめ,漁業,林業,鉱業ときわめて広い分野で使用される。構造部材などに使われる場合を静索,運搬機械などに使われる場合を動索という。ロープを構成するワイヤは硬鋼線材,あるいはピアノ線材を常温のもとでダイスを通して直径数mm程度以下の太さに伸線したもので,普通鋼材よりはるかに高い130kgf/mmないし180kgf/mmの引張強さをもつ。この高い強度は線材の化学成分,熱処理および上述の冷間引抜加工によってもたらされる。ワイヤは裸線のまま用いることもあるが,腐食を防ぐためふつうは亜鉛めっきを,ときにはアルミめっきを施す。
一般に広く用いられるストランドロープは,心線のまわりに何層かのワイヤを撚り合わせたストランド(子縄)を,さらに図1のように心綱のまわりに撚り合わせてつくる。心綱には別のストランド(図2-a),または油を十分にしみ込ませた,合成繊維,あるいは天然繊維(図2-b)を用いる。これに対し図2-cのスパイラルロープ(片撚りロープとも呼ばれる)は,ワイヤを何層かに撚ってつくったストランドを所要の断面積になるよう平行に束ねたもので,比較的太径のワイヤが使え,撚りのピッチ(撚り長)も長い。またスパイラルロープの一種に,図2-dのように外層に台形やZ形の異形断面ワイヤを配して空隙を小さくしたロックドコイルロープがある。表面が平滑で摩耗が少なく,水密性に富む利点はあるが,柔軟性に劣る。
ワイヤの撚り方には図3-aのZ撚りとS撚りがあり,前者を原則とする。しかし多数のワイヤからなるロープを形成するにあたり,ロープに発生するねじり作用を軽減するため両者を組み合わせることがある。別の分類のしかたでは各層のワイヤが平行になるように,したがって素線相互が線接触をして各層の素線が同一ピッチになるようにした平行撚りロープと,各層の素線の撚り角が等しく,したがって素線どうしは交差を生じて点接触となるような撚り方をした交差撚りロープとがある。平行撚りの場合は用途に応じて構成するワイヤの径と配列を変えるといったくふうが必要であり,交差撚りロープが一般的である。いずれにせよ,撚り長はストランド径の10倍前後である。さらにストランドロープをつくるには,図3-bに示すように,ロープとストランドと反対方向に撚る普通撚りと,両者を同一方向に撚るラング撚りとがある。ラング撚りロープは柔軟性があり,外層素線の外部との接触面積が大きく,耐摩耗性に優れるので元来動索に用いられているが,反面,撚りが戻ったり形くずれを起こすおそれがあるので,構造部材には取り扱いやすい普通撚りを用いる。
ワイヤロープの各素線はらせん形をなし,互いに密着しているため,ロープ全体に張力を加えると各素線には引張り以外のいろいろな応力が付加的に発生する。さらに,ワイヤの方向とロープ全体としての方向とが異なるので,ワイヤの引張強さがそのままロープ方向の強さとして有効に生かされず,多数のワイヤが必ずしも均等に働くとも限らない。これらのことから,ロープの強度はロープを構成するワイヤの強度の総和より低い。この両者の比を撚り効率といい,撚りの度合の大きいロープほどその値は小さくなる。弾性係数についても同様のことがいえる。これに対し,平行線ケーブルに用いられる平行線ストランドは,個々のストランドを構成するワイヤも,またストランドどうしも平行に束ねてつくられている。このため平行線ストランドではワイヤロープと異なり上記のような損失はきわめて少ない。したがって構造部材としての力学的性質は平行線ストランド,ロックドコイルロープ,スパイラルロープ,ストランドロープの順に悪くなる。他方,運搬や作業の際の取扱いやすさは,柔軟性に富み,形くずれを起こしにくいストランドロープがもっとも優れ,製品としての種類も多い。このため,ワイヤロープのJIS規格はストランドロープ,とくに動索を対象としたものとなっている。
執筆者:伊藤 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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※「ワイヤロープ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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