ケーブル(鋼鉄製のロープ)で線路上の車両を山上に引き上げる登山鉄道。鋼索鉄道ともいう。動力用のモーターは車両にはなく、地上の動力室に据え付けられている。世界最初のケーブルカーは、1830年にスイスに登場した。高い山の頂から美しい景色を見ようという観光目的のためであった。日本では1918年(大正7)開業の奈良県生駒(いこま)山の生駒鋼索鉄道(現、近畿日本鉄道生駒鋼索線、鳥居前―宝山寺間)が最初である。線路延長1キロメートル、高低差150メートル。敷かれた目的は、山上の生駒聖天参詣(さんけい)のためであった。
[吉村光夫]
つるべ式と循環式に大別されるが、大部分が前者であり、日本ではすべてつるべ式である。つるべ式は、ケーブルの両端に車両を結び付け(一方に車両ではなく、おもりを付けたものもある)、モーターでケーブルを巻き上げ、車両を上下させる。線路は単線であるが、上下する車両がすれ違えるよう中間部のみ複線となっている。この部分のポイント切り換え装置を省略するため、片側の車輪のフランジflange(輪縁)が特殊構造になっており、反対側の車輪にはフランジがない。屋根にパンタグラフがある場合でも、モーターへの集電用ではなく、照明や通信用である。乗務員は保安と観光案内が任務で、運転士は地上の動力室にいる。時速10キロメートル前後。
循環式は数少ないが、アメリカのサンフランシスコ市交通局のものが有名である(1873年開通、3路線18キロメートル)。これは、モーターが地上に据え付けられている点はつるべ式と同様であるが、ケーブルはレールの中央に掘られた溝の中を時速15キロメートルで走行する。車両にはグリップマンという運転士が乗っており、グリップレバーでケーブルを徐々に握りながら加速する。停止するときはケーブルを離しブレーキをかける。一方向に定速度で走り続けるため、全線複線で、車輪は通常の形である。モーターの出力限度内ならば何両でも連結でき、つるべ式より輸送力は大きいが、勾配(こうばい)に対しては限度がある。なお、1989年(平成1)に開催された横浜博覧会において循環式ケーブルカーとして横浜エスケイの「動くベンチ」が稼動していた。
[吉村光夫]
線路の勾配は、水平距離に対する高さの比を千分率(‰)で表す。一般の鉄道では80‰が限度とされ、それ以上の急勾配になると、車輪が空転してしまう。そのため、走行レールの間に歯形レールを敷き、車両につけた歯車をかみ合わせて上下するラックレール方式を採用せざるをえないが、この方式でも480‰が限度とされる。ケーブルカーはそれ以上の急勾配で使用される。たとえば、東京西郊の高尾登山電鉄は最大608‰で、日本で最急勾配となっている。
車体は勾配区間専用のため、横からみると平行四辺形で、床は階段状になっている。車両は、長さ12~13メートル、定員80人前後と小型で、ケーブル巻上げ用モーターは300馬力程度である。2両で上下走行をするため、路線を長くするとケーブルの重量が大きくなり、また運転間隔が開くので線路延長は長くて2キロメートル、普通は1キロメートル前後のものが多い。日本の路線数は2013年末時点で21社24線、総延長23.2キロメートルである。世界の最長路線はスイスのシェール―モンタナ間で4.2キロメートル、日本では比叡山(ひえいざん)鉄道の坂本―叡山中堂2.0キロメートルである。
[吉村光夫]
鋼索鉄道ともいう。車両に結びつけた鋼索(ワイヤロープ,ケーブルともいう)を地上に設置した巻上機で巻き上げて,急こう配に敷設したレール上に車両を運転する特殊鉄道。登山鉄道の一手段として知られるが,歴史的にはアメリカをはじめ市街地の交通手段として利用されたこともあり,サンフランシスコでは現在も観光的価値から実用されている。また地下に建設された(グラスゴー)ものもあった。英語では鋼索鉄道はcable railwayあるいはfunicular railwayと呼び,cable carはこれに用いられる車両を指す。なお,空中に張り渡したロープに搬器をつるして人や物を運搬するロープウェーをケーブルカーと呼ぶこともある(ロープウェー)。
ケーブルカーは鋼索を巻き取る方式により,つるべ式と循環式に分類される。前者はふつう2台の車両を鋼索の両端に接続し,山上側の駅に設置した巻上機で鋼索を巻き上げるもの,後者は山上と山下の駅の間で,環状になった鋼索を常時運転しておき,車両がこの鋼索をつかみとって走行する方式であり,都市交通機関としてのケーブルカーの多くはこの方式によっていた。サンフランシスコのケーブルカーには循環式が採用されているが,これは現在では数少ない例であり,旅客用のものはほとんどがつるべ式となっている。つるべ式では,山上駅と山下駅の中間に行違い用の複線区間を設け,2台の車両はつねにここで行違いをするようにし,その他の区間は単線としている。行違い場での分岐はふつうの鉄道に比べてはるかに簡易で,分岐器には可動部はいっさいなく,このため車両側にくふうがされていて,外側の車輪は両面にフランジのついた溝形をしており,また内側の車輪はフランジ無しとなっている。つるべ式では2台の車両の重さがほぼつり合っているので,乗客と鋼索の重さの差だけを上下させればよいことになり,動力が小さくてすむという利点がある。ただし単純なつるべ式の場合,線路の延長が長くなると鋼索の重量がかさみ,また運転間隔も長くなるため,2~2.5kmが限度である。より長い区間には多段式を用い,中間停車場において乗換えを実施する。ケーブルカーは急こう配を走行するので,鋼索が切れた場合には車輪の回転を止めてもレールの上を滑り落ちる恐れがある。このため,制動装置にはレールを両側からはさみつける方式が採用されている。また車両の保安装置のかわりに,引張り用の鋼索が切れた際にはもう1本の鋼索によって車両の逸走を防止する方式のものもあるが,これはリフトカーと呼ばれている。
ケーブルカーは19世紀後半,山岳観光の普及に伴ってスイス地方で発展,日本では旅客用としては1918年奈良県生駒山につるべ式のケーブルカーが開通したのが最初である。ただし鉱山用の循環式は明治年間から広く用いられており,また琵琶湖疎水の完成(1890)に当たり,京都市蹴上(けあげ)に設置されたインクラインは,車両上に舟を積みとる大規模な循環式ケーブルカーであり,遺構は保存・展示されている。
執筆者:中川 浩一+八十島 義之助
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…生駒山の東腹にある宝山寺(生駒聖天)は〈生駒の聖天さん〉として大阪商人の信仰を集め,門前町が発達した。1918年に日本最初のケーブルカーが東麓から宝山寺まで開通し,29年に山頂まで延長されたため従来の参詣道はさびれた。山頂は夏季の遊園地となり,回転展望台,飛行塔などの施設が設けられてにぎわい,またテレビの送信アンテナが立ちならび,マイクロウェーブの中継所や天文台などもある。…
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[路線]
1996年3月末現在で開業中の鉄道(JRを除く)は169事業者6885.9km,軌道は30事業者446.8km,合計181事業者7332.7kmある(うち18事業者は地方鉄道と軌道を併有)。この中には,特殊な構造を持つ鉄道として,鋼索鉄道(ケーブルカー)22事業者24.0km,懸垂式鉄道および跨座式(こざしき)鉄道(モノレール)6事業者31.4km,案内軌条式鉄道(ゴムタイヤ式のいわゆる新交通システムなど)8事業者79.1km,無軌条電車(トロリーバス)1事業者6.1kmが含まれている。このほか,普通索道(ロープウェー)が188線302.6km,甲種特殊索道(夏山リフト)が172線73.3km,乙種特殊索道(スキーリフト)が2770線1720.2km,丙種特殊索道(スキートー)が43線18.6kmある。…
※「ケーブルカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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