酸素分子には基底状態(3Σg-)の上に比較的エネルギーの低い励起状態,1Δg と 1Σg+ が存在するが,これら二つの一重項状態にある酸素をまとめて一重項酸素とよぶ.1Δg,1Σg+ 準位は基底状態から,それぞれ94.7,157.8 kJ mol-1 のエネルギーの高さにある.
1Δg→ 3Σg-,1Σg+→ 3Σg-
の(0-0)帯は,それぞれ1268,761.9 nm にあって大気酸素帯(atmospheric oxygen band),赤外大気酸素帯(infrared atmospheric oxygen band)として知られている.これら二つの遷移はともに磁気双極子遷移であり,さらに一重項-三重項のスピン禁制遷移であるため,遷移確率は非常に小さく,前者では自然寿命2.6×10-4 s-1,後者では0.14 s-1 程度である.このため,基底状態から一重項酸素への吸収は,常圧の気体中ではきわめて小さいが,液体酸素中,高圧酸素中では酸素分子間の相互作用によって遷移確率の増大した
(3Σg-,3Σg-)→(1Δg,1Δg),(1Δg,1Σg+),(1Σg+,1Σg+)
のような吸収が強く現れ,その一部が液体酸素の青色の原因となっている.一重項酸素は自然界には地球の上層大気中に存在することが,その発光スペクトルから確かめられているが,実験室的には,気相では酸素のマイクロ波放電,液相では次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の水溶液中の反応,またはローズベンガル,メチレンブルーなどの色素を増感剤とする光増感反応などで生成することができる.一重項酸素のうち,とくに O2(1Δg)は周囲の酸素分子や水分子によって脱活されにくく,気相および液相中で多くの有機化合物と特異的な反応をする.O2(1Δg)と有機化合物との反応としては,ジエン類に対する1,4付加反応,アリル水素をもつオレフィンとの反応によるヒドロペルオキシドの生成,また電子密度の高い二重結合への付加によるジオキセタンの生成などが知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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