(1)前6世紀ころギリシア各地に出現した7人の賢人たち(Hepta sophoi)のこと。たとえば〈万事,度を越すな〉など穏健な処世訓を説く格言の作者とされる。もっとも普通のリストで挙げられるのは,ミレトスのタレス,アテナイのソロン,スパルタのキロンChilōn,ミュティレネのピッタコス,プリエネのビアスBias,コリントスのペリアンドロスPeriandros,リンドスのクレオブロスKleoboulos。このうち若干の者は他と入れかえられることがある。七賢人を列挙した現存最古の文献は,プラトンの《プロタゴラス》。いずれにしても七賢人のうち,実際に詩作品を通じて賢人らしい思想が伝わるのはソロンだけである。七賢人のすべてが立法家や僭主や相談役として現実政治の世界で活躍したと伝えられており,暴政をおこなったものも含まれている。
彼らを主人公とする有名な物語によれば,漁師が海中から引き上げた黄金の鼎(かなえ)を,デルフォイの神託はもっとも賢い人に贈れと命じた。そこでタレスに贈られたが,彼はこれをビアスに譲り,かくて7人の間を一巡することになり,結局アポロン神に奉納されたという。このように人間の分を守ることが七賢人の処世訓の核心にあり,同様のことを説くデルフォイのアポロンの宗教とも密接な関係があった。また七賢人がペリアンドロスの主催する宴会で対話したという話も作られ,七賢人どうしが交わしたという書簡も創作された。ローマ帝国時代には,個々の賢人や七賢人全員の肖像をモザイクや壁画に描くことが流行した。
執筆者:藤縄 謙三(2)中国,三国魏の末期,放達の行為で知られた7人の自由人,すなわち阮籍(げんせき),嵆康(けいこう),山濤(さんとう),王戎(おうじゆう),向秀(しようしゆう),阮咸(げんかん),劉伶(りゆうれい)。一般に〈竹林の七賢〉とよばれるのは,嵆康の郷里の山陽(江蘇省淮安県)の竹林にあつまって酒をくみかわし,談論にふけったからである。かれらはひとしく酒を愛した。歩兵校尉の役所に美酒がたくわえられていると聞くと求めてその職についた阮籍,酒をことほぐ《酒徳頌》を書いた劉伶はとりわけ酒徒として名高い。またひとしく音楽を愛した。阮籍は《楽論》を著し,嵆康は《琴の賦》の作者であるとともに〈広陵散〉とよばれる琴曲の名手として聞こえ,阮咸も音楽理論によく通じていた。またひとしく老荘の哲学の信奉者であって,飲酒と音楽も老荘の〈自然〉の境地を楽しむためのものであったと考えられる。このように一見すればまことに高踏的な七賢の遊びにも,しかし魏王朝を奪(さんだつ)しようとする司馬氏のもくろみがあらわとなった魏・晋交代期のけわしい政局にたいする憤りと憂いがかくされていたことを認めなければならない。事実,嵆康は政局の犠牲者として刑死の運命をまぬがれなかった。すくなくとも韜晦(とうかい)のためのやむにやまれぬ行為であったことを認めなければならない。その間の事情は,阮籍が放達者の仲間に加わりたいと申しでたわが子の阮渾(げんこん)を,おまえには〈放達を為す所以(ゆえん)〉がわかっていないから,とたしなめていることからもうかがわれるであろう。七賢のなかには仲間から〈俗物〉とあざけられている王戎がふくまれているなど,7人が実際にグループを結んだのかどうか疑わしい点がないわけではない。しかし東晋以後,戴逵(たいき)の《竹林七賢論》をはじめとして七賢を論じた文章がつぎつぎに書かれた。また1960年に南京で発見された東晋時代の墓室の磚画(せんが)にも,七賢に春秋時代の賢人の栄啓期を配した8人のすがたが画かれている。
執筆者:吉川 忠夫
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古代ギリシア、アーケイック(アルカイック)期の7人の賢者。太陽神ヘリオスの7人の息子になぞらえてまとめられたと思われる。もっとも古く7人の名をあげたプラトンの『プロタゴラス』によれば、ミレトスのタレス、ミティレネのピッタコス、プリエネのビアス、アテネのソロン、リンドスのクレオブーロス、ケーンのミソン、スパルタのキロンからなる。賢人とその組合せには諸説があり、そのほか10人の名が知られている。紀元前4~前3世紀のファレロンのデメトリオス以降は、『プロタゴラス』のミソンをコリントのペリアンドロスにかえた7人にほぼ固定した。いずれも実践的な知恵や助言を語った知者で、ソロン、キロン、ペリアンドロス、ピッタコスなどは政治家としても重要な活動をした。彼らの知恵は、「汝(なんじ)自らを知れ」「極端を慎め」「苦痛を生む快楽を避けよ」「利得は飽くを知らぬもの」「年長者を敬え」「友人たちに対しては、彼らが幸運なときにも不運なときにも同じ人であれ」「市民たちにはもっとも快いことではなくて、もっともよいことを忠告せよ」といった格言の形で中世まで繰り返し引用され、解釈されたが、彼らに関する伝承には史実と虚構が混在し、すでに前4世紀に区別しがたくなっていた。
[清永昭次]
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
「ギリシア七賢人」のページをご覧ください。
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