アメリカが中心となり,1952年に成立した著作権保護に関する国際条約。所管はユネスコ。この条約は,著作権の発生について登録や著作権表示((c)表示)など,その保護に一定の方式を要求するアメリカなどの米州諸国(これらの方式を要求するため,無方式主義のベルヌ条約に入れない)と,著作権を無方式で保護するベルヌ条約加盟国とを結ぶ架橋的条約である。1899年にベルヌ条約に加入していた日本は,1956年この万国著作権条約に加入した。95年3月末現在,95ヵ国が本条約に加入している。万国著作権条約とベルヌ条約の双方に加入している国の国民の著作物は,ベルヌ条約のみで保護することになっている(万国著作権条約17条)。したがって,イギリス,ドイツ,フランスなどベルヌ条約加盟国76ヵ国を差し引くと,日本は19ヵ国と,万国著作権条約によって著作物を相互に保護しあっている。
同条約では,締約国の国民の著作物には自国民のそれと同一の保護を与えるという内国民待遇の原則,著作物の複製物に(c)(copyrightの頭文字)の記号と著作権者名と最初の発行年の3者を一体として表示すれば無方式主義をとる締約国の国民の著作物でも方式主義の国で保護を受けること,翻訳権に関する特例などを規定している。さらに保護期間は著作者の生存間と死後25年(ベルヌ条約より短い)としている。新規にある国がこの条約に加入した場合,その発効時から創作された締約国の国民の著作物について保護義務を負い,発効前に創作され,保護義務を負う国において期間満了になった著作物や保護を受けたことのない著作物については適用しないという不遡及の原則(ベルヌ条約は遡及原則)をとっている。
万国著作権条約は1971年パリで改正された。これはベルヌ条約改正と同時に改正され,ともに発展途上国に対して著作権保護を緩和する条項を設け,より多くの国を加入させようとした措置であった。
なお,WTO(World Trade Organization)協定という世界貿易機関を設立する協定が95年1月1日発効したが,この協定の付属書の一つのTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定。〈世界知的所有権機関〉の項参照)において,著作権,特許,商標等の知的所有権の国際的保護について規範とともにそれを担保する執行についても規定している。著作権については,コンピューター・プログラム,データベースの保護,貸与権についても規定し,ベルヌ条約,万国著作権条約とともに著作権に関する国際条約として重要である。95年3月現在,87ヵ国がWTO協定を締結している。
→ベルヌ条約
執筆者:大塚 重夫
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ベルヌ条約(1886)と並んで著作権を国際的に保護するための条約の一つ。1952年9月6日ジュネーブにおいて成立し、71年パリにおいて発展途上国保護のため一部改正されて現在に至っている。
この条約のもっとも重要な特徴は、著作権の保護のため無方式主義をとるベルヌ条約同盟国と、著作権の保護要件として登録・納本などの手続を必要とするというたてまえをとり、そのためにベルヌ条約に加盟できない国との架橋を図った点にある。すなわち、無方式主義国の著作物が方式主義国で保護を受けるためには、本来、方式主義国で定める所定の要件を具備しなければならないが、本条約は、すべての複製物に©(マルシー)表示を付することによって方式主義国の要件を満たしたものとして扱う制度を採用している。方式主義国と無方式主義国それぞれの体制を維持しながらも、手続を簡略にすることによって両者間のギャップを埋め、著作物の国際的交流の活発化を図ったものである。ここに©表示とは、©の記号(copyrightの略符)、著作権を有する者の氏名、および最初の発行年の3要素からなっており、この一つを欠いても©表示とは認められない。
このほか、万国著作権条約の特徴としては、(1)条約上保護すべき著作物の種類については制限的列挙主義をとらず、ベルヌ条約と同様、例示的列挙によって総括的に文学的、学術的および美術的著作物を保護すべきことを規定していること、(2)著作権の保護に内国民待遇の原則を採用したこと、(3)著作権の保護期間を著作者の生存中およびその死後25年以上とし、発行または登録起算の国においては発行または登録後25年以上、また保護期間の第二次延長が認められている国においては第一次の期間が25年以上とすべきことを定めたこと、(4)翻訳については部分的に法定許諾主義を採用したこと、(5)本条約とベルヌ条約の双方に加盟している国相互間においてはベルヌ条約が優先的に適用され、本条約が成立したことによってベルヌ条約が影響を受けるものではないことを明らかにしたこと、などである。わが国は、1956年(昭和31)この条約に加入しており、96年現在の加入国は95か国である。
[半田正夫]
『半田正夫著『著作権法概説』第八版(1997・一粒社)』▽『阿部浩二著『著作権とその周辺』(1983・日本評論社)』
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…また著作権法制の調和には条約の機能も看過できない。 著作権法制に関しては,〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉〈万国著作権条約〉(著作権の発生に登録等の方式を必要としない無方式主義の国の著作物でも,その複製物に(e)(マルシー)の記号,著作権者名,最初の発行年を表示すれば,方式主義の国でも保護を受けられるとしている),いわゆる〈レコード保護条約〉〈隣接権条約=実演家等保護条約〉〈TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)〉〈WIPO著作権条約〉〈WIPO実演・レコード条約〉などがある(後三者については〈世界知的所有権機関(WIPO)〉の項目参照)。
【日本における著作権法制】
日本で著作権法が制定されたのは1899年のことである。…
… ベルヌ条約は,1908年以来,著作権の享有および行使に登録,納本,留保の表示などの手続(方式)を必要としない無方式主義を条約上の原則としている。このほか,条約加盟国は,自国民に与えている保護と同様の保護を同盟国の国民に与えるという内国民待遇,条約の同盟国としてこれだけは守るという最低限の事項の定め,著作権の保護の範囲および救済方法は条約のほか保護が要求される国の法令,すなわち法廷地法によるという法廷地原則,条約に加盟した場合,その国は条約発効前に創作された著作物についても,発効時にその本国または保護義務を負う国において保護期間満了により公有となっているものを除いて,すべての著作物に遡及して適用されるという遡及の原則(万国著作権条約はこれと異なり不遡及原則をとる)などの基本的事項を定め,各国のモデル的性格を有している。1886年スイスのベルヌで調印に参加したのは,フランス,イギリス,スイス,ドイツ,イタリア,ベルギー,スペイン,ハイチ,リベリア,チュニジアの10ヵ国で,1887年12月5日条約は発効した(日本はこの条約作成会議にはオブザーバーを参加させるにとどまった)。…
※「万国著作権条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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