著作物を翻訳する権利。原著作物が存在して初めて発生し,それ自体別の保護を受ける二次著作権の一つ。ここでいう翻訳とは,ある言語の著作物を系統の違う他の言語によって正しく表現し直すことで,現代語訳あるいは点字訳,速記の反訳は含まないとされている。また他の言語に移し変えるものであっても,変形して利用,表現されるものは翻案の一つとして,翻訳とは区別されるのが一般的である。翻訳権が世界で初めて保護の対象となったのは,スイスのベルンで1886年調印,翌87年発効をみた〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉(略称はベルヌ条約)においてである。当初加盟国は10ヵ国にすぎず,翻訳権の保護期間は原著作物発行後10年をもって消滅するという短いものであった。しかし,1896年のパリ会議で改定され,10年以内に翻訳出版されれば一般の著作物の保護期間と同じく,著作者の死後30年存続することになった。さらに1908年のベルリン会議で,翻訳権に関する特例である〈翻訳権10年制度〉が廃止され,一般の著作権の保護期間の適用を受けることになった。
日本は1886年のベルヌ会議にはオブザーバーとして参加したが,ベルヌ条約に加盟したのは著作権法が制定された99年のことであった。このため翻訳権については〈翻訳権10年制度〉が1971年に新著作権法が施行されるまで存続することになった。これは,旧著作権法7条の〈著作権者原著作物発行ノトキヨリ十年内ニ其ノ翻訳物ヲ発行セサルトキハ其ノ翻訳権ハ消滅ス〉(1項),〈前項ノ期間内ニ著作権者其ノ保護ヲ受ケントスル国語ノ翻訳物ヲ発行シタルトキハ其ノ国語ノ翻訳権ハ消滅セス〉(2項)という規定である。この規定のおかげで日本は,欧米諸国間どうしの場合とは異なり,欧米をはじめとする外国の出版物の翻訳をしやすくなった。したがって,1908年のベルリン会議では日本側は,〈翻訳権10年制度〉廃止に強硬に反対して,留保宣言をすれば従来の条約の規定によることができるという妥協を取り付け,これにより〈10年制度〉を留保すると宣言した。この留保規定はいまだにベルヌ条約の条文として存続しており,また1971年のパリ会議では発展途上国のために,3年以上経過した著作の翻訳には強制許諾の条項を新たに設け,翻訳出版をしやすい条件づくりをしている。ただ日本の場合は,10年の経過措置を経て80年この留保規定は消滅し,現在は一般の著作権の保護期間と同じく著者の死後50年が適用されている。
→万国著作権条約
執筆者:宮田 昇
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著作権から派生する権利の一つ。著作物を翻訳するには、著作権者から翻訳の許諾を受けなければならない。ベルヌ条約(1886)加盟国の著作物の日本語への翻訳については、かつてわが国では、その著作物の発行後10年以内に適法な日本語による翻訳発行がない場合には、日本語への翻訳権が消滅し、その著作物はわが国で自由に翻訳発行できるという翻訳権10年消滅の制度を採用していた。これはわが国の出版社の保護のためとられていた制度であるが、諸外国の批判を受け、現在の著作権法(昭和45年法律48号)においては、1970年(昭和45)以前に発行された著作物に限って経過的に認めることにした。その結果、1981年以後は翻訳権が10年で消滅するということはまったくなくなり、著作権と同様、著作者の死後50年まで存続することになっている。
万国著作権条約(1952)加盟国の著作物の日本語への翻訳については、翻訳権の7年強制許諾制度の適用があり、著作物が発行されてから7年間は著作権者の許諾なしに翻訳発行することはできないが、それ以後はだれでも、相当にして国際慣行に合致した報酬を支払うことにより翻訳の許可を文化庁長官から受けることができることになっている。
[半田正夫]
『半田正夫著『著作権法概説』第三版(1985・一粒社)』
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… 著作権が著作物の利用から生ずる経済的な利益を保護するものであるとすれば,著作権の内容も,著作物のさまざまな利用形態に対応したものになる。こうして著作権法は,著作権の内容をなす権利として,複製権(21条),上演権および演奏権(22条),公衆送信権(放送権,有線放送権を含む)(23条1項),伝達権(23条2項),口述権(24条),展示権(25条),上映権および頒布権(26条),貸与権(26条の2),翻訳権,編曲権,変形権,翻案権(27条),二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)を列挙している。 日本では著作権の内容を定めるのに〈列挙主義〉を採用しているのに対して1965年のドイツの著作権法は,それまでの〈列挙主義〉を廃し,〈例示主義〉に切り換えた。…
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