翻訳権(読み)ホンヤクケン

デジタル大辞泉 「翻訳権」の意味・読み・例文・類語

ほんやく‐けん【翻訳権】

著作権の一。著作物翻訳する権利

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精選版 日本国語大辞典 「翻訳権」の意味・読み・例文・類語

ほんやく‐けん【翻訳権】

  1. 〘 名詞 〙 著作権に内包される部分権。著作物をある外国語に翻訳し、それを利用して利益を受ける権利。
    1. [初出の実例]「文芸学術の著作物の著作権は翻訳権を包含し」(出典:著作権法(明治三二年)(1899)一条)

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改訂新版 世界大百科事典 「翻訳権」の意味・わかりやすい解説

翻訳権 (ほんやくけん)

著作物を翻訳する権利。原著作物が存在して初めて発生し,それ自体別の保護を受ける二次著作権の一つ。ここでいう翻訳とは,ある言語の著作物を系統の違う他の言語によって正しく表現し直すことで,現代語訳あるいは点字訳,速記の反訳は含まないとされている。また他の言語に移し変えるものであっても,変形して利用,表現されるものは翻案の一つとして,翻訳とは区別されるのが一般的である。翻訳権が世界で初めて保護の対象となったのは,スイスベルンで1886年調印,翌87年発効をみた〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉(略称はベルヌ条約)においてである。当初加盟国は10ヵ国にすぎず,翻訳権の保護期間は原著作物発行後10年をもって消滅するという短いものであった。しかし,1896年のパリ会議で改定され,10年以内に翻訳出版されれば一般の著作物の保護期間と同じく,著作者の死後30年存続することになった。さらに1908年のベルリン会議で,翻訳権に関する特例である〈翻訳権10年制度〉が廃止され,一般の著作権の保護期間の適用を受けることになった。

 日本は1886年のベルヌ会議にはオブザーバーとして参加したが,ベルヌ条約に加盟したのは著作権法が制定された99年のことであった。このため翻訳権については〈翻訳権10年制度〉が1971年に新著作権法が施行されるまで存続することになった。これは,旧著作権法7条の〈著作権者原著作物発行ノトキヨリ十年内ニ其ノ翻訳物ヲ発行セサルトキハ其ノ翻訳権ハ消滅ス〉(1項),〈前項ノ期間内ニ著作権者其ノ保護ヲ受ケントスル国語ノ翻訳物ヲ発行シタルトキハ其ノ国語ノ翻訳権ハ消滅セス〉(2項)という規定である。この規定のおかげで日本は,欧米諸国間どうしの場合とは異なり,欧米をはじめとする外国出版物の翻訳をしやすくなった。したがって,1908年のベルリン会議では日本側は,〈翻訳権10年制度〉廃止に強硬に反対して,留保宣言をすれば従来の条約の規定によることができるという妥協を取り付け,これにより〈10年制度〉を留保すると宣言した。この留保規定はいまだにベルヌ条約の条文として存続しており,また1971年のパリ会議では発展途上国のために,3年以上経過した著作の翻訳には強制許諾の条項を新たに設け,翻訳出版をしやすい条件づくりをしている。ただ日本の場合は,10年の経過措置を経て80年この留保規定は消滅し,現在は一般の著作権の保護期間と同じく著者の死後50年が適用されている。
万国著作権条約
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「翻訳権」の意味・わかりやすい解説

翻訳権
ほんやくけん
right of translation

著作権から派生する権利の一つ。著作物を翻訳するには、著作権者から翻訳の許諾を受けなければならない。ベルヌ条約(1886)加盟国の著作物の日本語への翻訳については、かつてわが国では、その著作物の発行後10年以内に適法な日本語による翻訳発行がない場合には、日本語への翻訳権が消滅し、その著作物はわが国で自由に翻訳発行できるという翻訳権10年消滅の制度を採用していた。これはわが国の出版社の保護のためとられていた制度であるが、諸外国の批判を受け、現在の著作権法(昭和45年法律48号)においては、1970年(昭和45)以前に発行された著作物に限って経過的に認めることにした。その結果、1981年以後は翻訳権が10年で消滅するということはまったくなくなり、著作権と同様、著作者の死後50年まで存続することになっている。

 万国著作権条約(1952)加盟国の著作物の日本語への翻訳については、翻訳権の7年強制許諾制度の適用があり、著作物が発行されてから7年間は著作権者の許諾なしに翻訳発行することはできないが、それ以後はだれでも、相当にして国際慣行に合致した報酬を支払うことにより翻訳の許可を文化庁長官から受けることができることになっている。

[半田正夫]

『半田正夫著『著作権法概説』第三版(1985・一粒社)』

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百科事典マイペディア 「翻訳権」の意味・わかりやすい解説

翻訳権【ほんやくけん】

著作物を外国語に翻訳する権利。著作権に含まれ,著作者以外の者は著作権者の許諾または権利の譲渡をうけなければ翻訳できない。日本の著作権法(1899年)では,翻訳権は原著作物発行後10年間以内に翻訳物が発行されなければ消滅するとされ(10年留保の原則),10年間以内に翻訳されたものについてのみその保護期間を著作者死後38年とされていた。しかし1970年の同法改正により,1971年以降発行の著作物については翻訳権の保護期間を一般の著作権と同じく著作者死後50年に延長。ただし1970年末までの翻訳物には旧規定を適用。なおベルヌ条約では保護期間は著作者死後30年,同条約ブリュッセル規定では50年である。→万国著作権条約

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「翻訳権」の意味・わかりやすい解説

翻訳権
ほんやくけん
translation right

著作権の一部で,ある著作物を翻訳し,その翻訳物を公表 (特に出版) する権利 (著作権法 27) 。日本では 1899年,旧著作権法が制定されたが,これはベルヌ条約ローマ規定に基づいており,原著作物発行後 10年以内に翻訳が出ない場合には,その翻訳権は消滅し,だれでも自由に翻訳できるとするいわゆる「翻訳権不行使による 10年消滅制度」を留保していた。しかし現行著作権法の施行に伴って,翻訳権の保護期間は,著作者の生存期間および死後 50年という一般原則に変った (51条2項) 。ただし現行法施行前に発行された著作物には旧法の規定を適用する経過措置がとられた。ベルヌ条約に未加入で万国著作権条約の適用のある国の著作物については,発行後7年以内に翻訳が出ない場合は,文化庁長官の許可を得て,所定の補償金を支払って翻訳できる特例 (翻訳権の7年強制許諾) がある。

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世界大百科事典(旧版)内の翻訳権の言及

【著作権】より

… 著作権が著作物の利用から生ずる経済的な利益を保護するものであるとすれば,著作権の内容も,著作物のさまざまな利用形態に対応したものになる。こうして著作権法は,著作権の内容をなす権利として,複製権(21条),上演権および演奏権(22条),公衆送信権(放送権,有線放送権を含む)(23条1項),伝達権(23条2項),口述権(24条),展示権(25条),上映権および頒布権(26条),貸与権(26条の2),翻訳権,編曲権,変形権,翻案権(27条),二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)を列挙している。 日本では著作権の内容を定めるのに〈列挙主義〉を採用しているのに対して1965年のドイツの著作権法は,それまでの〈列挙主義〉を廃し,〈例示主義〉に切り換えた。…

※「翻訳権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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