日本大百科全書(ニッポニカ) 「世界ドーピング防止機構」の意味・わかりやすい解説
世界ドーピング防止機構
せかいどーぴんぐぼうしきこう
World Anti-Doping Agency
スポーツ選手のドーピング行為を防止するため、監視や検査に関する規定を統一し、禁止薬物やドーピング防止に関する教育、啓発活動等を行うことを目的とする国際機関。略称WADA。世界アンチ・ドーピング機構、世界反ドーピング機構ともいう。1999年に設立され、本部をカナダのモントリオールに置く。WADAが定める世界ドーピング防止規定World Anti-Doping Codeに基づき、国ごとに公認された国内ドーピング防止機関が実際の検査や分析を実施している。
1998年に国際的な自転車ロードレースのツール・ド・フランスで大量の薬物使用が発覚したことがきっかけとなり、翌1999年、国際オリンピック委員会(IOC)がスイスのローザンヌで、第1回アンチ・ドーピング国際会議を開催した。この会議でまとめられたローザンヌ宣言に基づき、同年、IOCの監督下でWADAが発足した。さらに2005年、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)でスポーツにおけるドーピング防止に関する国際規約が採択されたことにより、WADAを中核にして国内、地域、世界レベルでの協力体制と防止活動が展開されている。
[編集部]
世界ドーピング防止規程
スポーツにおけるドーピング防止のための国際基準として、世界ドーピング防止機構によって統一化された規程。WADA規定と略される。最初の規定は2003年に採択され、翌2004年に発効した。禁止薬物リスト、検査と分析の方法、罰則など、ドーピング検査や違反者に対する統一的な対処方法や、禁止物質および禁止された方法の治療目的での使用にかかわる除外措置Therapeutic Use Exemptions(TUE)の国際基準やその手続などが定められている。国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会、国際競技連盟のほか、各国の公認ドーピング防止機関や競技大会組織委員会などに採択されている。禁止薬物のリストは年1回改定され、毎年1月1日から新しい禁止リストが発効する。禁止される薬物は三つに大別されている。(1)つねに禁止される薬物と使用方法、(2)競技会に応じて禁止となる薬物と使用方法、(3)特定の競技においてのみ禁止される薬物。
しかし、禁止薬物のなかには病気の治療などのため入手できるものも多く含まれるため、競技者が知らない間に服用してしまう「うっかりドーピング」が後を絶たない。各国のドーピング防止機関では、冊子やホームページなどを通じ、毎年更新される禁止リストの告知や啓発活動を行っている。
[編集部]
日本アンチ・ドーピング機構
日本国内でドーピング検査を実施し、その結果を管理するとともに、ドーピング防止に関する教育、啓発活動を行う公益財団法人。英語名称はJapan Anti-Doping Agencyで、略称JADA。国際オリンピック委員会や世界ドーピング防止機構などの国際機関と連携しながら、国内の競技会やジュニア大会においてドーピングに関する情報を提供し、指導している。2001年(平成13)に設立され、本部を東京都北区の国立スポーツ科学センター内に置く。
2009年からはJADAと公益社団法人日本薬剤師会が連携し、世界的にも珍しいスポーツファーマシスト制度が実施されている。世界ドーピング防止規程や禁止薬物の国際基準について、薬剤師を対象に講習や情報提供を行い、所定の課程を修めた者をJADAが公認する制度である。同制度では、各都道府県の薬剤師会に設置されているドーピング防止ホットラインやスマートフォンなどの端末から容易に禁止薬物を確認できるモバイル用サイトを運用し、ドーピング防止に関する相談業務や情報発信も行っている。
[編集部]