中国語の部屋(読み)ちゅうごくごのへや(その他表記)Chinese Room

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中国語の部屋」の意味・わかりやすい解説

中国語の部屋
ちゅうごくごのへや

アメリカの哲学者サールJohn Rogers Searle(1932― )が、人工知能AI)は人間のように物事理解することはないということを主張するために考案した思考実験。理解を伴わない機械的操作チューリングテストに合格することが可能であることを示そうとしたもので、以下のような設定である。

 部屋中国語を理解しない人間と、中国語の応答に関するマニュアルがある。この部屋に、外から紙に中国語で書かれた質問が投げ込まれる。すると、中の人間はその紙の文字をマニュアルに従って変換し、別の紙に書き、その紙を外に返す。外の人間からみれば中国語の質問に適切な答えが返ってきた(チューリングテストに合格した)ことになるが、中の人間はなにも理解していないというもの。

 しかし、これに対しては反論も多くある。たとえば、これは知的にふるまうために必要な計算量などを無視した議論であるとするもので、最近になってコンピュータ科学者のレベックHector Levesque(1951― )が「足し算の部屋」を提案し、足し算ですらそのようなマニュアルはつくれないことを示した。

 もう一つの重要な反論は、中国語を理解したのは、あくまでマニュアルを含む中国語の部屋全体であるから、その一部の人間だけを考えて中国語を理解していないというのは、人間をみて、その網膜や脳の一部をさして意味を理解していないというのに等しいというものである。

[中島秀之 2019年8月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中国語の部屋」の意味・わかりやすい解説

中国語の部屋
ちゅうごくごのへや
Chinese Room

アメリカ合衆国の哲学者ジョン・R.サールが考案した思考実験著書 "Minds, Brains, and Programs"(1980)で展開した議論で,弱い人工知能の研究には賛同する一方強い人工知能は実現不可能であると主張した(→強い人工知能,弱い人工知能)。中国語をまったく理解できない人が,中国語の質問に答えるための完璧なマニュアルをもって入った部屋(中国語の部屋)を想定する。このことを知らない部屋の外にいる人が,質問を中国語で書いて部屋の中に送る。すると,部屋の中にいる人が,マニュアルを参照して質問の回答を書き出し,部屋の外に送り返す。この状況は,部屋の外にいる人からすれば,部屋の中の人が中国語をよく理解しているようにみえるかもしれないが,実際は,理解しているわけではない。サールは,単にプログラムに書かれたとおりのことを解釈実行する人工知能は,上記の中国語の部屋の中にいる人とまったく同じことをしているだけであり,たとえ中国語の質問応答に関するテューリングテストに合格したとしても,中国語を本当に理解しているとも,理解の本質をとらえているともいいがたい,と論じた。これに対し,中国語を理解するということの本質が説得力のあるかたちで明示されていないため,次のような反論がある。中国語の理解が部屋の中の人とマニュアルの相乗効果によるものだとすれば,人工知能は中国語の部屋の中にいる人のみではなく,中の人を含めた部屋全体に対応づけられるが,部屋全体が中国語を理解していないという証明はなされていない。

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