ある理想的な状況を想定し、そこで理想的な実験を行ったとするとき、どのようになるかを考察することをいう。現実の実験では、使用可能な材料や、避けられない誤差と精度の制限などによって、理論自体の帰結をはっきりと取り出すのがむずかしい場合であっても、理論的に可能な限りもっとも理想的な状況を想定し、実験も理想的に行えると仮定する。そのことによって、理論が本来もっている性質をはっきりと取り出し、その意味を明らかにし、あるいは一般的な法則を導くのに使われる。
たとえば、ハイゼンベルクは、無限に波長を短くできるγ(ガンマ)線顕微鏡を使って電子の位置を無限に精密に測定したとすると、その電子の運動量の値はまったく不確定になることを示し、このような思考実験によって、不確定性原理を一般的に導いた。また、理想気体を一方の壁がシリンダーである容器に入れ、理想的な等温状態および断熱状態での膨張および圧縮を組み合わせて、蒸気機関の原理を明らかにする、いわゆるカルノー・サイクルも思考実験の一つである。思考実験の過程は、実際には、純粋に実現することはできないが、このように、理論的に可能である限りの理想的な過程を考察することによって、重要な結論を導くのに使われる。
[町田 茂]
アインシュタインは、1935年にポドルスキーBoris Podolsky(1896―1966)およびローゼンNathan Rosen(1909―95)とともに、有名な思考実験を提唱した。彼らは、それによって、量子力学はあるパラドックス(3人の名前の頭文字をとって「EPRパラドックス」といわれる)を含んでおり、量子力学では瞬間的に無限に遠くまで伝わる神秘的な作用を含むことになるので、その自然記述は不完全であると論じた。これは量子力学の基礎を揺るがす問題なので、それ以来、激しい議論が続いた。
しかし、1964年にベルJohn Stewart Bell(1928―90)が量子力学が正しいかどうかを決定する方法を発見し、80年ころからフランスのアスペAlain Aspect(1947― )らが巧妙な実験を行って、量子力学が正しいことを示した。またアスペらは、それまで実現が困難で単なる思考実験と思われていたEPRの思考実験を実現することにも成功し、アインシュタインらがパラドックスと考えた現象が実際に自然界に起こっていることを確かめた。つまり、量子力学の考え方が全面的に正しく、それをもとにして、これまでの考え方のほうを変えなければならないことがはっきりした。これは単なる思考実験にすぎないと思われていたことが実際に実験できるようになり、それによって自然認識が画期的に進んだ例である。
[町田 茂]
『金子務著『思考実験とはなにか その役割と構造を探る』(講談社・ブルーバックス)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アルキメデスの方法を受けついで〈実験〉を実現したのは,オランダのS.ステフィン,イギリスのノーマンRobert NormanやW.ギルバート,イタリアのガリレイらであった。実際問題として外的条件を簡単化する作業はきわめて複雑困難で,巧みなくふうと多大の費用を必要とするので,論理的に行う〈思考実験〉もしばしば行われる。また標本の選び方によって外的条件を一様にする〈実験計画法〉の手法も20世紀に出現した。…
※「思考実験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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