思考実験(読み)シコウジッケン

デジタル大辞泉 「思考実験」の意味・読み・例文・類語

しこう‐じっけん〔シカウ‐〕【思考実験】

理想的な実験方法や条件を想定し、そこで起こると考えられる現象理論的に追究すること。

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精選版 日本国語大辞典 「思考実験」の意味・読み・例文・類語

しこう‐じっけんシカウ‥【思考実験】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Gedankenexperiment の訳語 ) 考えの上で、ある実験方式を想定し、それからどのような結果が得られるかを吟味すること。理論体系の矛盾の検証や実験装置の設計などに用いられる。
    1. [初出の実例]「思考本来の道行きをそのまま辿りゆけば、屡々、いわゆる思考実験(ゲダンケン・エキスペリメント)の領域へまで踏みこむに至るのだろう」(出典:死霊‐〈埴谷雄高〉自序(1946‐48))

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「思考実験」の意味・わかりやすい解説

思考実験
しこうじっけん

ある理想的な状況を想定し、そこで理想的な実験を行ったとするとき、どのようになるかを考察することをいう。現実の実験では、使用可能な材料や、避けられない誤差と精度の制限などによって、理論自体の帰結をはっきりと取り出すのがむずかしい場合であっても、理論的に可能な限りもっとも理想的な状況を想定し、実験も理想的に行えると仮定する。そのことによって、理論が本来もっている性質をはっきりと取り出し、その意味を明らかにし、あるいは一般的な法則を導くのに使われる。

 たとえば、ハイゼンベルクは、無限に波長を短くできるγ(ガンマ)線顕微鏡を使って電子の位置を無限に精密に測定したとすると、その電子の運動量の値はまったく不確定になることを示し、このような思考実験によって、不確定性原理を一般的に導いた。また、理想気体を一方の壁がシリンダーである容器に入れ、理想的な等温状態および断熱状態での膨張および圧縮を組み合わせて、蒸気機関原理を明らかにする、いわゆるカルノー・サイクルも思考実験の一つである。思考実験の過程は、実際には、純粋に実現することはできないが、このように、理論的に可能である限りの理想的な過程を考察することによって、重要な結論を導くのに使われる。

[町田 茂]

アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンの思考実験

アインシュタインは、1935年にポドルスキーBoris Podolsky(1896―1966)およびローゼンNathan Rosen(1909―95)とともに、有名な思考実験を提唱した。彼らは、それによって、量子力学はあるパラドックス(3人の名前の頭文字をとって「EPRパラドックス」といわれる)を含んでおり、量子力学では瞬間的に無限に遠くまで伝わる神秘的な作用を含むことになるので、その自然記述は不完全であると論じた。これは量子力学の基礎を揺るがす問題なので、それ以来、激しい議論が続いた。

 しかし、1964年にベルJohn Stewart Bell(1928―90)が量子力学が正しいかどうかを決定する方法を発見し、80年ころからフランスのアスペAlain Aspect(1947― )らが巧妙な実験を行って、量子力学が正しいことを示した。またアスペらは、それまで実現が困難で単なる思考実験と思われていたEPRの思考実験を実現することにも成功し、アインシュタインらがパラドックスと考えた現象が実際に自然界に起こっていることを確かめた。つまり、量子力学の考え方が全面的に正しく、それをもとにして、これまでの考え方のほうを変えなければならないことがはっきりした。これは単なる思考実験にすぎないと思われていたことが実際に実験できるようになり、それによって自然認識が画期的に進んだ例である。

[町田 茂]

『金子務著『思考実験とはなにか その役割と構造を探る』(講談社・ブルーバックス)』

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百科事典マイペディア 「思考実験」の意味・わかりやすい解説

思考実験【しこうじっけん】

科学の基礎原理に反しないかぎりで,極度に単純・理想化された実験装置・方法・条件(たとえば摩擦のない運動,収差のないレンズなど)により遂行されると想定した実験。現実の実験の誤差や限界を顧慮する必要がなく,物理量の定義,理論に内在する矛盾の発見に役立つほか,特に観測が重要な意義をもつ量子力学の理論展開に積極的役割を果たしている(たとえば不確定性原理)。
→関連項目実験物理学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「思考実験」の意味・わかりやすい解説

思考実験
しこうじっけん
thought experiment

実際に実験を行わず,用意された対象,それに加えられる条件,測定手段と測定器をいずれも理想的なものと仮想し,実験を行なって得られるであろう結果を推論すること。 A.アインシュタインが同時刻の相対性,等価原理などを,また W.ハイゼンベルクが不確定性原理を思考実験で導き出したのは有名な例である。思考実験は概念や量の定義にも用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内の思考実験の言及

【実験】より

…アルキメデスの方法を受けついで〈実験〉を実現したのは,オランダのS.ステフィン,イギリスのノーマンRobert NormanやW.ギルバート,イタリアのガリレイらであった。実際問題として外的条件を簡単化する作業はきわめて複雑困難で,巧みなくふうと多大の費用を必要とするので,論理的に行う〈思考実験〉もしばしば行われる。また標本の選び方によって外的条件を一様にする〈実験計画法〉の手法も20世紀に出現した。…

※「思考実験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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