1882年(明治15)に丸善から刊行の日本最初の近代詩集。帝国大学(のちの東京大学)の教官外山正一(ゝ山(ちゆざん)),井上哲次郎(巽軒(そんけん)),矢田部良吉(尚今(しようこん))の共著で,3人の序文,翻訳詩14編,創作詩5編から成る。伝統的な短い詩形を近代には不向きなものと断定し,西洋詩の模倣を合言葉としたが,用語や発想は短歌を基礎としている。訳詩には《グレイ氏墳上感懐の詩》(尚今訳)や《ハムレット》の独白(第3幕第1場)の競訳(ゝ山と尚今)など注目すべきものがある。創作詩はゝ山の〈抜刀隊〉〈勧学の歌〉のように軍歌や教訓の類が多く,強い批判をまきおこしたが,近代詩を始動させた歴史的意義は大きい。
執筆者:野山 嘉正
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…そうしたなかで,都合4度にわたる短歌否定論ないしは短歌滅亡論をめぐってのやりとりは,〈時代の詩〉としての問題,〈心〉と〈言葉〉の問題といった古典歌論以来の問題にあらたな角度から照明を当て,加えて西欧詩と日本の詩,伝統と現代,小説と詩といった新しい問題をとり込んで〈歌論〉の領域を広げ,かつ論点を深めたのであった。最初は,《新体詩抄》序(1882)にはじまるそれ,以下,尾上柴舟〈短歌滅亡私論〉(1910),釈迢空(ちようくう)(折口信夫)〈歌の円寂する時〉(1926),そして第2次大戦後の昭和20年代初頭のいわゆる〈第二芸術論〉時代,この4度である。歌の根拠,歌の存在理由を直接に問うたこれらの機会を典型的な場面として,〈歌論〉は文芸評論史のなかで独自の歩みを進めてきたのである。…
…【荒井 健】
【日本の近代詩】
日本近代詩の歴史は,和歌,俳諧,漢詩など旧来の伝統的詩形に替わるものとしての西洋のポエトリーの移入によって始まったと,一応いうことができる。外山正一,矢田部良吉,井上哲次郎共著の《新体詩抄》(1882)が一時代を画したとされるのはそのためである。彼らは上述の伝統詩形に対する明治の新しいスタイルの詩という意気ごみで,自分たちの作ならびに訳詩を〈新体詩〉とよんだ。…
※「新体詩抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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