井の中の蛙(読み)いのなかのかわず

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

見聞の狭いことや、それにとらわれて、さらに広い世界のあることを知らないことのたとえ。井戸の中のカエルが、東海に住むカメに、自分の住居の楽しさは無上であると自慢したところ、カメが海の話をし、海では千里も遠いうちに入らず、千仞(じん)の高さも海底の深さに達せず、時の長短や量の多少でいっさい計れないのが東海の大楽であるというと、カエルは驚きあきれて、返すことばもなかったと『荘子(そうし)』「外篇(がいへん) 秋水(しゅうすい)」にあり、韓愈(かんゆ)の『原道(げんどう)』にも「井に坐(ざ)して天を観(み)る」などとある。「井の中の蛙大海を知らず」「井(かんせい)の蛙(あ)」ともいい、単に「井蛙(せいあ)」「井底(せいてい)の蛙(あ)」ともいう。

[田所義行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ことわざを知る辞典の解説

自分の狭い知識や経験にとらわれ、他に広い世界があるのを知らない者のたとえ。「大海を知らず」と続けることも多い。

[使用例] 内紛と復讐に没頭して中央の政界から没落した水戸藩の人々は、全く井戸の中ので、勤王家といえども、慶喜様がおやめになったと聞いて力を落すばかり、一体世の中がどうなるのか、見当がつかないで途方に暮れていたくらいですから[山川菊栄*武家の女性|1943]

[使用例] 講談社参りをしたのは、もちろん原稿の売りこみである。〈略〉ぼくは、すでに何冊かの単行本を出し、ことに「新宝島」は東京でもよく売れていたので、威風堂々(?)と社の玄関をくぐった。が、やはり井の中の蛙であった。「もう少し絵を勉強なさってください」と慇懃に断られた[手塚治虫*ぼくはマンガ家|1969]

[解説] 平安末期に漢籍から故事熟語を抜粋して編まれた「世俗文」に「せいていかえる」があり、漢文の比喩に由来するものでしょう。「後漢書―馬援伝」または「荘子―秋水篇」が出典と推定されていますが、「大海を知らず」は、直接対応する語句が見出せず、日本に入ってきてから、比喩の内容をわかりやすく説明して加えたもののようです。
 このことわざの場合、冒頭部が「井底」「井の中」「井のうち」「井戸の中」などと多様で、「蛙」も「かわず」のほか「かえる」と読むことも少なくありません。これは、他の漢文由来のことわざとは異なり、読み下し文として流布することがあまりなく、また井戸も蛙も日常的に身近だったので、多くの人が短い寓話としてそれぞれ自分なりのことばで伝承した結果と思われます。なお、「井」は、掘り抜き井戸をイメージしますが、本来は泉またはであったとする説もあります。

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