改訂新版 世界大百科事典 「交通計画」の意味・わかりやすい解説
交通計画 (こうつうけいかく)
道路,鉄道,港湾,空港などの交通施設を,将来の見通しを踏まえた適切な計画目標のもとで配置,運営,管理する一連のプロセス。一定の財政的制約のもとで,人や物資の移動に対してよりよいサービスを提供することが主目的であるが,交通に関するその施策によって都市や地域の経済・社会構造を望ましい方向に誘導することも含まれる。
計画の内容
交通計画は対象とする計画内容によって,交通網計画,路線計画,ターミナル計画に大別することができる。複数の路線や路線相互の接続,乗換えを含めて交通施設のネットワークを検討するものが交通網計画で,例えば国土や地域間のような広域交通では道路,鉄道,港湾,空港など,都市内では鉄道,道路などの交通施設を総合して考えることがとくに必要となる。かつては,それぞれの交通手段だけで個別に施設計画が検討されることが多かったが,交通網の効率的な運用を図るために総合交通体系の観点から,各種施設の有機的連係が重視される。路線計画は,2地点を結ぶ交通施設を建設するについて,それが経過するルートや曲線,こう配,車線数などの規格をどのようにするかを検討するものである。ターミナル計画は,人の乗換えのための鉄道駅,バスターミナル,空港や,貨物の積卸し,積換えのためのトラックターミナル,港湾などの施設計画を策定するものである。
対象地域と交通計画
(1)国土交通計画 国土総合開発計画に沿って,国民生活や産業の共通の基盤となる幹線的な鉄道,道路および空港,港湾などの交通施設の体系を総合的に整備していくための計画。国土の交通を支える幹線的な交通施設は,その整備に多額の資金を要するとともに完成までに長年月を要する。さらにこれらの幹線交通施設は一度建設されると長期にわたってそれぞれの都市や地域の経済発展と市民生活に重大な影響を及ぼす。したがって,その計画にあたっては,まず,将来必要とされる輸送力,輸送のサービスレベル,各交通手段相互間の競合,協調なども考慮し,全国の効率的な交通ネットワークの形成を目ざすことが重要である。また,整備費用と開発効果,エネルギー,環境,空間などの制約条件,供用開始後の償還見通しなどについても十分な検討が必要となる。
(2)都市交通計画 計画対象都市圏の規模・経済・社会的・地理的特性によって,目的,対象施設,手法などが異なり,とくに,東京,大阪,名古屋などの大都市圏と地方中心都市圏では計画の考え方に大きな差異がある。大都市圏では,多様な土地利用,人口,機能の集積などの社会的・経済的条件に加え,鉄道や道路などの多種多様な交通手段がすでに整備されており,交通手段相互の適正な役割分担のもとに,バランスのとれた都市交通施設をつくるために都市交通体系のマスタープランを確立し,これに基づく個別施設計画を策定することが重要となる。とくに都市内では,新たな道路用地の取得が困難であるので,限られた交通空間を有効に利用して人や物資をいかに効率よく移動させるかが問題となる。すなわち輸送力の大きい地下鉄,バスなどの公共交通手段を整備強化するとともに,適切な交通規制,バス専用レーンやバス優先信号の設置などの手段によって既存交通施設の有効利用が検討されるべきであろう。そのほか,自動車交通がもたらす騒音,排気ガスなどによる都市環境の悪化などの要素もあるので,都市内ではマイカーを規制,抑制し,可能な限り鉄道やバスなどの公共交通手段への転換を促進すべきである。一方,地方中心都市圏では,都市圏の規模は小さいが,大都市以上にモータリゼーションの進展が顕著である。それに対応して人々は郊外に住居をかまえ,自動車の利用によって都市内の勤務地へ通勤する傾向が強い。このため,都市圏のとくに周縁部では人口密度が希薄になり,バスなどの公共交通の経営は困難な状況に直面しており,自動車を利用できない老人や子どもなどの人々に対する交通サービスの確保が問題となっている。地方中心都市圏では,自動車交通の利点を生かしつつ,同時に公共交通の適切な整備を積極的に進めていくことが課題となる。
(3)地区交通計画 一般に都市内の1~100ha程度の住居地区や商業地区などを対象としたものをいい,その内部の交通にかかわる諸問題の対策が課題となる。この地区内の交通計画では日常生活に比較的密着した徒歩や自転車への配慮の比重が増す。すなわち,大量の交通需要の円滑な処理よりも,人と自転車,自動車が安全に共存して便利でしかも快適な地区内の生活環境,商業環境と調和できることが必要である。そのためには,地区の性格に合わせた交通規制や道路の段階的構成を見いだすことが計画の中心となる。さらには,地区外との交通についてもゾーンバスシステムなどによって一定の公共交通サービスを維持すること,交通事故,騒音,地区分断など自動車交通が生活環境に及ぼす弊害を抑制することなどが重要となる。
(4)地方交通計画 地方の小都市や農山漁村における交通を扱うもの。地方においては一般に人口が少なく,交通需要も少ない。そのためバスなどの公共交通機関の効率が悪く,経営が成り立たないという問題がある。それらの地域に居住する人々にとっては自家用車は生活の必需品であり,その普及率は当然高くなっているが,老人,子どもの通院,通学など,いわゆる交通弱者にとってはバスが不可欠であり,その日常生活の足をいかに確保するかが困難な課題となっている。そのほか積雪時,荒天時の交通途絶による陸の孤島化をいかに防ぐかなどが重要な課題となる。すなわち,将来の交通需要に対する効率性や経済性の視点ではなく,住民の生活環境の向上や最低限の社会福祉の保障という見地からの分析と対策が重要となる。
交通計画の手順
交通計画においては,単に交通サービスを提供するという交通機能のみに着目するのではなく,都市計画や地域計画との関連のもとで交通需要の予測や交通施設整備を考えなければならない。都市圏における交通計画を例にすると,一般に次のような手順がとられる。(1)まず,その交通計画が何を目ざすのかを明らかにし,それによって計画対象地域の範囲やそのゾーニングの方法,目標年次などを設定する。(2)対象地域における各種の都市活動や交通の実態を把握するため,人口,経済指標,土地利用,交通施設,交通量などについて現在に至るまでのデータを収集する。(3)これらのデータから,都市構造や都市活動と関連づけて,人や物資の流動メカニズムを分析する。(4)対象地域に関連する上位計画によりマスタープランや将来の都市活動の目標水準などを明らかにし,また既存の整備計画などを交通計画の外生条件として設定する。(5)交通施設整備による影響を含めて,人口,経済指標,土地利用,都市構造などの将来予測を行い,交通計画の外生条件として設定する。(6)種々の外生諸条件のもとで人や物資の流動パターンを予測する。また,この交通需要の予測結果を参考として交通施設計画の代替案をいくつか作成し,それぞれについて交通需要を予測する。(7)最後に,この交通量の予測結果を用いて一定の評価基準に基づいて計画代替案を総合的に評価し,もっとも好ましい計画案を選択する。
ところで,広域的な幹線道路や鉄道などの交通計画は,一般には,基本構想→基本計画→整備計画→実施計画→運用・管理計画という一連のプロセスによって策定され,具体化される。高速道路の路線計画を例にとれば,まず基本構想の段階では,路線のおもな経過地と起終点のみが決められる。次に基本計画の段階では,高速道路が地域社会・経済に与える影響や建設費,施工難易などを総合的に判断し,おもな経過地が選ばれる。整備計画の段階になると,より具体的になり,沿道生活環境の変化や用地買収の可能性,道路を走る車の走りやすさ,施工の難易や建設費の償還見通しなどが問題となる。最後に実施計画の段階になると,インターチェンジのレイアウトや個々の構造物の設計,施工法が問題となる。
→交通政策
執筆者:天野 光三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報