中国,金・元・明の各王朝で発行,使用された紙幣。明では宝鈔という。鈔は書券,交はつき合わせて真偽を確かめるという意味。宋代の四川では,富豪が組合を作り,現金を預かって交子という約束手形を発行していたが,宋朝はそれを官営化し,制度を整備して紙幣の機能を持たせた。交鈔の起源は,この交子に求められる。紙幣が銅銭に代わって主要通貨となるのは元代からである。この背景には,素材としての銅の涸渇,そしてとりわけ宋以降の都市内における貨幣経済の普遍化,専売制の強化による信用経済の確立などの要因があった。1260年(中統1),銀を鈔本(兌換準備金)に中統元宝交鈔(10文から2貫文までの9種)が発行されたが,運営に当たっては,鈔発行の中央官庁として交鈔提挙司が置かれ,下部機関の抄紙房・印造局でそれぞれ製紙,印造が行われた。このほか銀との兌換や,新鈔と旧鈔との交換のために,各地に交鈔庫(行用庫)や平準庫も設けられた。元朝の初年には,兌換準備銀の確保,発行額の制限,商税・塩課などの徴税による鈔の回収が図られたため,しばらくは順調に機能した。しかし国家財政の増大から発行額が膨張すると,貨幣価値はしだいに下落していく。元朝は87年(至元24)に至元通行宝鈔を新造し,中統鈔の平価切り下げ(中統鈔5貫=至元鈔1貫)によって局面を打開しようとするが結局成功せず,不換紙幣化した交鈔はインフレーションを昂進させて元末に至った。続く明も元にならって1375年(洪武8)に大明宝鈔の製造を始めるが,元と違い当初から兌換準備銀を用意せず,不換紙幣として発行した。一方で銀の使用を禁止し,国庫への集中を図ったが,これは当時民間で盛んになりつつあった銀の流通を抑止し,経済界を国家の統制下に置こうとしたものと考えられる。しかし不換紙幣であることもあって価値の維持ができず,逆に民間での銀使用の風潮はいっそう盛んとなった。結局政府もそれを追認したため,明中期以後の中国社会は銀経済にまき込まれ,交鈔もその役割を終えることになる。
→貨幣
執筆者:檀上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国で宋(そう)代におこり、金(きん)、元(げん)、明(みん)と継承され、清(しん)代に衰えた紙幣。明代には宝鈔(ほうしょう)とよんだ。11世紀の初め、四川(しせん)に民間の交換手形として交子(こうし)が現れ、1023年に交子務(こうしむ)が成都に置かれて官営の紙幣となり、1107年から銭引(せんいん)と改称され、ほぼ全国に流通した。交(こう)は交換の意、引(いん)は塩や茶などの証券の用語からおこった。南宋は紙幣を会子(かいし)とよんだが、華北を支配した金(きん)は宋に倣って交鈔を1150年以来発行した。大鈔(たいしょう)は1、2、3、5、10貫、小鈔(しょうしょう)は100、200、300、500、700文、流通期間は7年、章宗(しょうそう)(在位1189~1208)以後はこの期間制限も廃した。金(きん)は、銅資源に乏しく銀を貨幣に多用したが、財政の膨張とともに紙幣を乱発し、額面価値の下落や物価騰貴を招いた。1215年貞祐宝券(ていゆうほうけん)が発行されたころには紙幣1貫は現金1文ほどに下落し、政府は銅銭の流通を禁じたので、銅銭は海外に密輸された。こうして銀が主要貨幣となった。元は金(きん)の制度を受け、1236年以来交鈔を発行した。中統元宝(ちゅうとうげんぽう)交鈔(10文~2貫文)、至元通行(しげんつうこう)宝鈔(5文~2貫文)はその代表である。初めは制度も整い、兌換(だかん)準備の銀錠(ぎんじょう)も豊かで、年間70万錠あまり流通したが、1270年代からインフレとなり、1350年以後は乱発となり、この間、東南アジアやペルシアにも流通した。明も元の制を受け、大明(だいみん)宝鈔(100文~1貫文)を1375年に発行した。これは不換紙幣で銅銭と併用されたが不評であり、紙幣は下落して、銅銭と銀錠が主要な通貨となった。
[斯波義信]
『彭信威著『中国貨幣史』(1965・上海人民出版社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
宋,金,元,明朝の紙幣の総称。宋では交抄,交引,交子(こうし),会子(かいし),銭引,金・元では交鈔,明では宝鈔(ほうしょう)と呼ぶ。宋代約束手形として発達した見銭(げんせん)交鈔が,紙幣同様の流通力を持ち,交子,会子に発展し,金ではまったく紙幣となった。元では主要通貨となり,中統元宝交鈔,至元通行宝鈔,至大銀鈔を発行したが,銀の準備不足で暴落し,明の大明宝鈔も不換紙幣となった。
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… その運用方式を一般的に述べると,鈔引の発行発売に当たっていたのは京師の榷貨務(かくかむ)(中央専売局),入中地は河北・河東・陝西三路の州軍と京師の榷貨務および折中倉(せつちゆうそう),入中したのは見銭(現銭),金銀絹帛,糧草(粟,麦,豆,藁草)で,このいずれを入中させるかは時々の条例で定められていた。三路の州軍で入中を受けると,その品目・価格等を抄記した手形(交抄,交鈔,交引)を交付し,京師榷貨務で見銭を支払うかもしくは鈔引を換給して,その価格を償還していた。榷貨務で支払いに用いられた見銭は,本務に入中された鈔引の代価および本務が兼営する地方州軍支払いの為替取組み(便換(べんかん))の入納銭であった。…
※「交鈔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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