国家ないし地方公共団体が,その活動に要する費用を租税として徴収することを徴税という。徴税を国民の側からみた場合には,これを納税という(〈納税の義務〉の項参照)。なお,内容の確定した納税義務の履行を求める手続を,狭義の徴税ということがある。
徴税の方法は,国により,また時代によりさまざまであるが,日本の現在の徴税制度は以下のような特色をもっている。すなわち,第1に,かつては,国家が私人に徴税を請け負わせる制度(徴税請負)等も存在したが,今日においては,国家ないし地方公共団体が直接徴税を行うのが原則である。ただし,現在も,納税義務者以外の第三者に租税を徴収させて,これを国または地方公共団体に納付させる徴収納付の制度が広く採用されている(所得税の源泉徴収や,住民税その他の地方税の特別徴収)。第2に,かつては,物納も重要な位置を占めていたが,近代国家の成立とともに金銭による徴収が主流を占めるようになった。現在,日本において物納が認められているのは相続税のみである。第3に,憲法上,租税法律主義の原則が存在し,租税の徴収は法律または法律の定める条件によらなければなしえないこととされている(憲法84条)。しかも,三権分立の原則の下,租税法律の制定,執行,租税に関する訴訟がそれぞれ独立の機関により行われることになっている。第4に,徴税の具体的方式について,国税においては,納税者がみずから納付すべき税額を申告する申告納税方式が原則であり,行政庁が納税者の納付すべき税額を決定する賦課課税方式は例外である。ただし,地方税については,申告納税方式(地方税法上は,申告納付とよばれている)は例外的な方式にすぎない。第5に,国税と地方税の徴収一元制をとらず,両者が別々に徴収される。これは,地方公共団体の独立性を尊重する趣旨である。
なお,アダム・スミスの時代から,租税原則の一つとして〈徴税費用最小の原則〉が主張されているが,現実の租税制度においては,〈租税公平負担の原則〉等との調和をも考えながら,徴税費用の最小化を図る必要がある。
執筆者:中里 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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