知恵蔵 「人民元切り上げ」の解説
人民元切り上げ
1985年以降、人民元の為替取引は公定相場との二重為替相場制の下で行われていた。94年に公定相場が廃止され、98年以降は1米ドル=8.28元で固定されてきたが、この間も安い元を武器に、中国の輸出産業は成長し続けた。一方、対中貿易赤字に苦しむ欧米諸国は、元相場の固定は実態にそぐわず人民元は過小評価されていると、中国に人民元切り上げの圧力をかけ続けた。これを受けて、2005年に中国当局は、市場の需給に基づく管理フロート制に移行し、人民元を約2%切り上げたのである。しかし、金融危機の拡大で輸出企業の業績悪化を恐れた中国当局は、再び為替市場への介入を強め、08年7月からは元売りドル買いによって対米ドル相場を固定するという政策を続けていた。
今回の弾力化声明は、G20サミット(6月26~27日開催)の直前であり、人民元切り上げを求める欧米諸国の強圧をかわそうとするねらいがあったと見られている。また、米国議会のなかで「中国を為替操作国に認定すべき」という声が高まっていたことも背景にあると見られる。為替操作国認定は回避できたものの、切り上げ幅は小さく、今後も欧米諸国の圧力は続く見通し。実際、国際経済の回復が後押しをしているというものの、切り上げ発表の6月、中国の輸出額は単月としては過去最高の約12兆2千億円に達している。
(大迫秀樹 フリー編集者 / 2010年)
人民元切り上げ
(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報