人民元切り上げ(読み)じんみんげんきりあげ

知恵蔵 「人民元切り上げ」の解説

人民元切り上げ

2010年6月21日、中国人民銀行(中央銀行)は「人民元相場の弾力性を強化する」という声明を発表。同日為替市場中国当局実質人民元の切り上げ容認」に即座に反応し、前週より0.45%高い1米ドル=6.7958元まで上昇した。翌日、同銀行は一転して「相場に影響を与える大幅な切り上げは行わない」と牽制(けんせい)したが、その後も小幅ながらゆるやかに上昇している。ただし、人民元は当局の政治的な介入によって変動する管理相場であることに変わりなく、米国をはじめ諸外国の不信感は消えていない。
1985年以降、人民元の為替取引は公定相場との二重為替相場制の下で行われていた。94年に公定相場が廃止され、98年以降は1米ドル=8.28元で固定されてきたが、この間も安い元を武器に、中国の輸出産業は成長し続けた。一方、対中貿易赤字に苦しむ欧米諸国は、元相場の固定は実態にそぐわず人民元は過小評価されていると、中国に人民元切り上げの圧力をかけ続けた。これを受けて、2005年に中国当局は、市場の需給に基づく管理フロート制に移行し、人民元を約2%切り上げたのである。しかし、金融危機の拡大で輸出企業の業績悪化を恐れた中国当局は、再び為替市場への介入を強め、08年7月からは元売りドル買いによって対米ドル相場を固定するという政策を続けていた。
今回の弾力化声明は、G20サミット(6月26~27日開催)の直前であり、人民元切り上げを求める欧米諸国の強圧をかわそうとするねらいがあったと見られている。また、米国議会のなかで「中国を為替操作国に認定すべき」という声が高まっていたことも背景にあると見られる。為替操作国認定は回避できたものの、切り上げ幅は小さく、今後も欧米諸国の圧力は続く見通し。実際、国際経済の回復が後押しをしているというものの、切り上げ発表の6月、中国の輸出額は単月としては過去最高の約12兆2千億円に達している。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2010年)


人民元切り上げ

中国人民銀行は、2005年7月21日に、人民元を市場の需給に基づき通貨バスケット制を参考に調整した管理フロート制に移行すると発表し翌日、人民元の為替相場は1米ドル=8.28元から同8.11元に約2%切り上げられた。人民元市場相場の前日仲値比変動幅は、対米ドルで上下0.3%以内とし、新たに米ドル以外の通貨に対しては仲値比上下1.5%以内とした。人民元の外国為替取引については、1985年以降、外貨調整センターが設けられ、公定相場と「限定的ながら需給が反映された相場」との二重為替相場制が取られてきたが、94年初に、このうち公定相場が廃止されて為替相場が一本化された。特に98年以降はほぼ1米ドル=8.28元で固定されていた。94年4月には上海に外貨取引センターが設置され、複数主要都市に置かれたセンターとオンラインでつながり人民元の為替取引が行われている。ただし、実需を伴った取引のみが許されており、会員である金融機関は常に同センターを相手として取引を行う。これまで意図的に人民元安に固定して中国の国際競争力を高めてきたとの批判が米国を中心に強く、中国はこれに反発しつつ今回小幅な切り上げを行った。引き続き切り上げを督促するような相場展開が続こうが、中国としては、資本取引の自由化等、WTO加盟に伴う自由化措置を段階的に進め小刻みの切り上げを誘導していこう。なお、マレーシアも同日にそれまでの米ドルへの固定相場制から管理フロート制に移行した。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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