日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブルセラ症」の意味・わかりやすい解説
ブルセラ症
ぶるせらしょう
brucellosis
ヒトにも感染する獣疫(ウシやヤギなどの草食動物およびブタに多い感染症)の一種で、世界に広く分布する。感染症予防・医療法(感染症法)では4類感染症に分類されている。起炎菌はブルセラ属のグラム陰性の短桿菌(かんきん)で、ヒトへの感染は畜産業や獣医師など病畜と接触する機会のある職業の人に多い。動物ではおもに生殖器が侵され、流産や不妊症の原因となるが、ときに関節炎や膿瘍(のうよう)形成がみられることもある。ヒトでは肝臓、脾臓(ひぞう)、骨髄、リンパ節などの細網内皮系がおもに侵される。潜伏期は通常14日で、不快、倦怠(けんたい)、衰弱などの症状が現れたのち、発熱、悪寒とともに発汗、頭痛、各部の疼痛(とうつう)を伴う。多くの例では体温の動きが特徴的で、日内変動は夕刻に高くて早朝に低い間欠的熱型を呈し、これが1~3週間経過すると数日の無熱期があり、その後にふたたび間欠的熱型がみられる。このように有熱期と無熱期が波状的に現れるので、波状熱(はじょうねつ)ともよばれる。治療としては、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシンなどが有効とされている。予後は良好で、回復までの期間は平均2、3か月であり、死亡率は1~5%である。予防として、動物に弱毒生ワクチンが用いられているが、日本では血清反応検査による摘発淘汰(とうた)方式が行われている。
なお、ブルセラ属のうちBrucella melitensisによるものをマルタ熱とよび、またB. abortusによる場合はバング病のほか、地中海熱、ジブラルタル熱、山羊(やぎ)熱などいろいろな呼び方がある。
[松本慶蔵・山本真志]