ニューモシスチス・カリニ肺炎(読み)ニューモシスチス・カリニはいえん(英語表記)Pneumocystis carinii pneumonia

六訂版 家庭医学大全科 の解説

ニューモシスチス・カリニ肺炎
ニューモシスチス・カリニはいえん
Pneumocystis carinii pneumonia
(感染症)

どんな感染症か

 ニューモシスチス・カリニと呼ばれる微生物の感染によって起こる肺炎です。ニューモシスチス・カリニの生物学的分類ははっきりせず、真菌(しんきん)カビ)に近いとする説と原虫に近いという説があります。この微生物はヒトを含めたさまざまな動物に通常感染していますが、免疫力が正常な個体ではその増殖を阻止できるので、病気を起こすことはありません。ところが、エイズなどの免疫不全状態に陥るとニューモシスチス・カリニの増殖を止められなくなり、病気が起こります。

症状の現れ方

 通常、エイズ患者や免疫抑制薬を投与した臓器移植患者、抗がん薬や放射線治療を行った白血病悪性腫瘍患者に併発します。発熱、乾いた(せき)、息苦しさに始まり、呼吸困難、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青くなる)へと至ります。同時に動脈血酸素分圧が大きく低下します。胸部X線写真では両側の肺全体に(かすみ)がかかったように、すりガラス様の陰影を生じます。適切な治療を行わないと確実に死に至ります。

検査と診断

 免疫不全状態の患者さんでは間接蛍光(けいこう)抗体法などで血清抗体を検出することが難しい場合が多いので、喀痰(かくたん)、吸引物、あるいは肺生検組織からニューモシスチス・カリニを染色して顕微鏡検査で見つけることで診断されます。また、特定の研究機関では抗原の検出、PCR法によるDNAの検出も可能です。

治療の方法

 治療にはトリメトプリム・サルファ剤合剤、ピリメタミン・サルファ剤合剤、あるいはペンタミジンが用いられます。エイズの患者さんでは本症の併発が死因の大きな比率を占めています。

 エイズ、悪性腫瘍など本肺炎を起こす危険のある患者さんには、予防的な投薬を行うこともあります。

野崎 智義

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 の解説

にゅーもしすちすかりにはいえんかりにはいえん【ニューモシスチス・カリニ肺炎(カリニ肺炎)】

[どんな病気か]
 ニューモシスチス・カリニという原虫(げんちゅう)とかびの性質を合わせもった特異な微生物が肺に感染しておこる肺炎です。
 感染に対する抵抗力(免疫(「免疫のしくみとはたらき」))が十分にはたらいている健康な人におこることはなく、がんなどの悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を治療するために抗がん剤が使用されていたり、臓器移植や膠原病(こうげんびょう)などで免疫抑制薬や副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンが使用されていて、極端に免疫が低下している人に感染症の症状が現われます。
 最近では、エイズにともなう日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)として、もっともよくみられ、重要な病気となりました。
[症状]
 呼吸困難や頻呼吸(ひんこきゅう)(通常より呼吸数が多い)がおもにみられ、発熱やせきをともないますが、たんはほとんど出ないことがふつうです。
 胸部X線写真をみて、ほとんど陰影がみられない初期でも、しばしば呼吸困難が現われます。
[検査と診断]
 たんに含まれる病原体を証明して診断します。しかし、たんの量が少ないために、気管支に入れる特殊な内視鏡(気管支鏡(きかんしきょう))を使って、肺の組織をとって顕微鏡で調べたり、気管支肺胞洗浄という方法で採取した洗浄液中のニューモシスチス・カリニを探します。ただし、全身の状態が悪いために気管支鏡が使えない場合には、誘発喀痰法(ゆうはつかくたんほう)(濃い生理食塩水を吸入してたんを出し、集める方法)が最近使われるようになりました。
 また、免疫の低下した患者さんが、この病気のような特徴的な症状をおこした場合は、この病気に対する治療を行ない、肺炎がよくなったら診断を確定することもあります(診断的治療)。
[治療]
 トリメトプリムとサルファ剤を配合した薬(合剤)を2週間内服したり、点滴したりします。また、ペンタミジン製剤を注射したり吸入する方法もあり、吸入は注射よりも副作用が少なく、比較的よい結果が得られます。
 免疫力が低下して、ニューモシスチス・カリニ肺炎をおこしやすい人には、トリメトプリムとサルファ剤の合剤(治療量の4分の1から6分の1)を毎日服用したり、ペンタミジンの吸入を月に1度実施して予防します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

百科事典マイペディア の解説

ニューモシスチス・カリニ肺炎【ニューモシスチスカリニはいえん】

ニューモシスチス・カリニという原虫の感染によって起こる肺炎。正常な状態では発症せず,エイズや末期(がん),臓器移植で免疫抑制薬治療を受けている場合など,免疫力が極端に落ちている人に発症する。発熱,呼吸困難,チアノーゼが主な症状で,咳は出るが痰はない。治療はトリメトプリムあるいはピリメサミンとサルファ剤の内服,もしくはペンタミジンの吸入による。
→関連項目人獣共通伝染病生体小腸移植

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