デジタル大辞泉
「Q熱」の意味・読み・例文・類語
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Q熱(感染症および寄生虫疾患)
定義・概念・病因
Q熱は,リケッチアやレジオネラ,クラミジアに近縁の病原体であるコクシエラ属のCoxiella burnetiiが,保菌動物である野生動物や家畜,ペットなどの分泌物や排泄物が乾燥・崩壊して生じるエアゾルを経気道吸入して感染する人獣共通感染症である.感染菌量にもよるが約半数は不顕性感染で終わり,ヒト-ヒト間の感染はまれである.病名は,オーストラリア・ブリスベンの屠畜場で集団発生した原因不明(query)の熱性疾患が「奇妙な熱性疾患」を意味する「Q fever」として1937年に報告されたことに由来する.
疫学
Q熱は現在,ほぼ世界中に分布することが知られている.日本の臨床報告第1例は1989年であるが,これを契機に種々の調査研究が行われ,病型として最も多い急性肺炎では,欧米と同様に市中肺炎原因菌の2~4%程度を占めると考えられる.すなわち,市中肺炎では肺炎球菌が最も多く,ついでインフルエンザ菌,肺炎マイコプラズマ,肺炎クラミジアが続き,本菌はその後の第5位~7位前後にレジオネラなどと同程度の頻度で関与する.
病型・症状・経過・予後
Q熱の大部分は急性型(急性Q熱)である.1~3週間の潜伏期後にインフルエンザ様の上気道炎や肺炎,肝炎,不明熱など多彩な病像で発症し,乾性咳や高熱,筋肉痛や全身倦怠感,一過性肝障害を伴う.死亡率は,無治療でも1~2%であり,抗菌薬が適切に投与されれば1%をはるかに下回るが,脳脊髄膜炎,心筋炎,腎不全となる重症例もある.一方,心内膜炎や慢性肝炎,慢性骨髄炎,関節炎,慢性腎炎などで発症する予後不良の慢性型も少数ながら存在し,急性Q熱の後に慢性疲労症候群様に経過する症例もあるとされる.
検査・診断・鑑別診断
急性Q熱では,ほかの非定型肺炎と同様,臨床症状が強いのに対して臨床検査値の変化は大きくはなく,白血球数増加なども少ない.肺炎例の胸部X線像は多発性の肺野斑状影を呈する例が多いが,間質性陰影,胸水貯留など多彩な陰影の例もみられる.肺炎球菌などによる細菌性肺炎との鑑別はやや困難である.症状が改善しても陰影の改善・吸収には時間を要する例が多く,臨床的には器質化肺炎との鑑別を必要とする例がある.
確定診断は,ペア血清抗体(IgGおよびIgM)価の4倍以上の上昇によるが,抗体価の上昇に数カ月を要する例も多い.ELISA法による抗体価測定法もあるが,抗体価測定の標準法は間接蛍光抗体法(IFA法)である.気道系の検体を用いるコクシエラ遺伝子のPCR検出は有力な補助診断法である.本菌はP3レベルの管理が必要な強い感染性を示すため,通常の病院検査室などでの培養は危険である.
治療と予防
急性Q熱の多くは予後良好であるが,一部に重症化する例や慢性型への移行もあり得るので,確診例や疑いの強い症例は積極的に治療する.偏性細胞内寄生性の本菌には細胞内移行の不良なβ-ラクタム薬は通常無効であり,移行の良好なテトラサイクリン薬が第一選択である.マクロライド薬やキノロン薬の効果は若干低い.多くは治療開始後数日で解熱するが,ほかの非定型肺炎の場合と同様にいずれの薬剤も2~3週間の投与期間を要する.
日本ではQ熱に対する認識が浅いためワクチンは普及していない.欧米では家畜用やヒト用のワクチンが実用化されているが,ヒトでのワクチンの適応は,屠畜場や酪農業の従業員,獣医や動物実験施設の従業員などの保菌動物との接触が多い集団に限られる.[渡辺 彰]
■文献
Maurin M, Raoult D:Q fever. Clin Microbiol Rev, 12: 518-553, 1999.
高橋 洋,渡辺 彰:44.Q熱[コクシエラ](Coxiella burnetii).病原菌の今日的意味 改訂4版(松本慶蔵編), pp.726-738,医薬ジャーナル社,大阪,2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
Q熱
キューねつ
Q fever
(感染症)
原因菌は家畜や愛玩動物がもつQ熱コクシエラという細菌です。感染経路は、感染動物の糞尿や出産・流産時の胎盤などに含まれるコクシエラ菌を吸入して感染します。
外国では家畜からの感染が多いのに比べ、日本ではネコからの感染が多いとされます。ヒトからヒトへの感染はまず起こりません。
最近、日本でも肺炎の一部に関わっていることがわかっていますが、診断が容易でなく、実態はまだ不明です。
急性と慢性に分けられ、急性型の潜伏期は2~3週間で、症状は発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、呼吸器症状などインフルエンザに似ていて、肺炎、肝炎、不明熱など、その臨床像は多様です。
大半は自然治癒しますが、弁膜症などがある人では急性型から心内膜炎を主徴とする慢性型に移行(10%程度)し、その場合は難治性です。
検査所見では、CRPの上昇、肝酵素の上昇、血小板数の減少、貧血などがみられます。特異検査として、コクシエラ菌に対する血清抗体価の上昇で確定診断しますが、時間がかかります。
治療には有効な抗菌薬があり、急性型の場合には2~3週間続けると治癒します。しかし慢性型の場合は予後が悪く、数年にわたる投薬が行われても十分に効果が得られないこともあります。
急性型の発症の際に適切な治療を行い、慢性型に移行させないことが重要です。
原因不明の熱が続く時や、動物との接触歴や海外(流行地)への渡航歴がある場合は、本症を疑って早めに受診します。感染源の疑いのある出産時の動物(愛玩動物も含む)、とくに死・流産などを起こした動物や排泄物の取り扱いに注意します。
岸本 寿男
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
Q熱
きゅーねつ
リケッチアの一種Coxiella burnetiiによっておこる人獣共通の熱性感染症で、1937年オーストラリアのクイーンズランドで発生した際に初めて報告されたので、地名の頭文字をとってQ熱と名づけられた。患者からは感染せず、ウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜からダニ類の媒介によって感染する。しかし、罹患(りかん)しているウシやヤギの乳から感染することもある。したがって、家畜に接する職業の人に多くみられる。
潜伏期は約2週間で、突然発熱し、激しい頭痛や不快感を伴い、肺炎をはじめ、肝炎、心嚢(しんのう)炎、髄膜炎などを併発することもある。クロラムフェニコールやテトラサイクリン系の抗生物質が有効である。ほとんど全世界に広がっており、日本では輸入家畜の検疫に重点を置いて予防している。汚染常在国ではダニの駆除をはじめ、感染の機会の多い畜産関係の職業の人やウシに対して不活化ワクチンによる予防が行われている。
[柳下徳雄]
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Q熱 (キューねつ)
Q fever
リケッチアの一種Coxiella burnetiiによる急性感染症で,世界各地に分布するが,日本には存在しない。経口および経鼻感染する。ダニ類により伝播され,感染した家畜乳の飲用,家畜小屋の塵埃(じんあい)吸入がおもな感染経路とされる。潜伏期は14~26日とされ,頭痛,悪寒,発熱,筋痛,食欲不振で発病する。数日後,咳,胸痛を呈し,胸部X線写真で肺炎像がみられる。3~6日の経過で解熱していくが,1/3の症例では長びき,生検で肉芽腫性病変を呈する肝炎を合併する。ときに心内膜炎を起こす。死亡例はほとんどない。補体結合反応により,血清学的診断が可能である。治療として,テトラサイクリン,クロラムフェニコールが有効で,経過を短縮することができる。またワクチン接種により,感染の恐れの大きい職業の人々を防御することができる。
執筆者:深谷 一太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Q熱【キューねつ】
世界各地にみられるリケッチア性の伝染病。家畜にはダニが媒介するが,ヒトへは家畜の出産,屠殺の際に飛沫(ひまつ)感染する。また感染牛の生乳も感染源となる。発熱が数日から2〜3週間続き,しばしば肺炎を起こし,胸部X線写真に斑状の陰影を現す。テトラサイクリンなどの抗生物質が有効。Qは1937年にクイーンズランド(オーストラリア)で発見された時,query fever(原因不明熱)と呼ばれたことによる。
→関連項目細菌兵器|人獣共通伝染病
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きゅーねつざんごうねつ【Q熱(塹壕熱) Q-Fever】
[どんな病気か]
家畜が保有しているリケッチアが、ダニの媒介(ばいかい)で人に感染します。東南アジア、オーストラリア、アフリカ、西ヨーロッパ、北米、中米などに存在します。
[症状]
潜伏期間は12~30日です。発熱、頭痛、軽いせき、たん、胸痛(きょうつう)などがおこり、X線写真で肺炎の病像がみられます。
[治療]
テトラサイクリンなどの抗生物質が有効です。
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