物体の運動についてニュートンが発見した三つの法則のことで、ニュートンの運動法則ともいう。運動一般のなかには、単に物体の位置の変化に限らずそれ以外のものがあるが、運動の法則といえば通常ニュートンの運動法則を意味する。
[田中 一]
中世にあっては、聖書とアリストテレスの自然学にのみ基づいて天体と地上の物体の運動を論ずるのが普通であった。その結果、大地は不動であって天体が運行し、その運動は円環的で、かつ地上の物体はそれがなんらかの力を受けているときにのみ運動していると考えられていた。これに対して、天体の運行の法則をその精密な観測のもとにみいだすべきであると考え、膨大な量の観測を行ったのがティコ・ブラーエで、その観測データを高い数学的能力によって巧みに整理し、いわゆるケプラーの三法則にまとめたのがケプラーである。
ガリレイもまた、観察された事実にのみよりどころを求めながら物体の運動法則に論理的考察を加えて、物体が力の作用を受けないときには慣性運動を行うことを論証し、また放物体の運動の法則をみいだした。しかし、ガリレイはまだそれまでの物体の運動に関する偏見のとりこになっていた点もあって、たとえば慣性運動を円運動とみて、かならずしも直線運動とは考えなかった。また重力についての認識も欠いており、落下運動を自然運動と受け取った。これに対してニュートンは、ケプラーの法則からこの運動をもたらすものとして万有引力を発見し、落下運動も引力の作用によって生じた加速度運動としてとらえた。さらに、慣性運動が直線運動であることを示し、運動の法則を3法則にまとめ、これから多くの結論を引き出した。
[田中 一]
ニュートンの運動法則は三つの法則から成り立っており、それぞれ運動の第一、第二、第三法則とよぶ。
第一法則 すべての物体は、その静止の状態を、あるいは直線上の一様な運動の状態を、外力によってその状態を変えられない限り、そのまま続ける。
第二法則 運動量(運動)の時間的変化(変化)は及ぼされる外力(起動力)に比例し、その力の及ぼされる方向に行われる。括弧(かっこ)内はニュートンの用いた用語である。
第三法則 2物体相互の作用は、つねに相等しく逆向きである。
第二法則を微分方程式の形で書き表せば、dp/dt=Fとなる。ここでpは物体の運動量、Fは物体に作用する外力である。運動量は物体の質量mとその速度vの積であって、質量が運動により変化しない場合にはm(dv/dt)=Fの形をとる。dv/dtは加速度a(速度の変化率)であって、物体の位置ベクトルrを用いて
v=dr/dt, a=dv/dt=d2r/dt2
となるので、第二法則を
m(d2r/dt2)=F, ma=F
の形に書くこともできる。運動の第二法則を数学的に表現したこれらの微分方程式を運動方程式という。
運動の三法則の間には互いに密接な関係があるが、各法則はそれぞれ独立な内容を有している。第一法則(慣性の法則)は、外力の作用を受けない物体が等速度で運動するようにみえる座標系、すなわち慣性系の存在を示す。ニュートン以前には、物体がなんらかの作用を受けない限り、静止するかあるいは円運動を続けるものと考えられることが多かった。慣性系に対し、一定の速度で動く座標系も同じく慣性系であるが、第一法則の示す限りでは、かならずしも両座標系の時間の進み方が同じでなければならないということはない。
第二法則(運動の法則)は、運動量の変化の割合あるいは速度の変化の割合が外力によって与えられることを示すものであるから、この法則だけからは現実の運動は一義的に定まらない。現実の運動を定めるためには、任意の時刻の物体の位置のほかに、同時刻の速度(あるいは異なる時刻の速度か位置でもよい)を与えなければならない。第二法則が成り立つのは、第一法則がその存在を示した慣性系においてのみであって、第二法則はすべての慣性系に対して共通の時間のもとに同一形式の運動方程式の成り立つことを要請している。外力のない特別の場合として第二法則は第一法則を含んでいるようにみえるが、このことは、両法則が互いに矛盾しないことを示すものとみるべきであろう。
第三法則(作用・反作用の法則)は、物体の運動が重心運動と各部分間の相対運動という独立な二つの運動に分離することを示す。任意の物体を断面によって二つの部分A、Bに分けたとき、もし、AからBへの作用の大きさよりもBからAへの反作用が大きいとすれば、外力の作用を受けていないにもかかわらず、この物体はBからAの方向に加速度運動を行う(重心運動)。実際には、作用と反作用との大きさが等しく方向が反対のため、これらの作用・反作用は物体全体の重心運動に影響をもたらさない。
[田中 一]
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…しかしこの座標系では見かけの力を考慮しなければならないため,力学の立場からは必ずしも便利ではない。力学の立場では運動の法則が最も簡単な形をとる座標系,すなわち慣性座標系(慣性系)を用いるのが望ましい。ふつうわれわれが地上の物体の運動に対して用いる地上に固定した座標系はこの慣性系に十分近いことがわかっている。…
… こうして慣性概念の確立をみたところから,第3の,そしておそらくはもっとも重要な運動法則の定式化が生まれる。ニュートンの手によって行われ,ニュートンの運動の(第2)法則と呼ばれるようになったこの定式化は,周知のようにf=mα(mは物体の質量,fは加えられた力,αは生じた加速度)という形をもち,アリストテレスの強制運動におけるP=WVという形と比較すると,外力が運動(つまり速さ)を生ずるのでなく,運動の変化(つまり加速度)を生ずると考えられている点に最大の新しさがある。この新しいニュートンの運動法則を土台にして,近代物理学のみならず,自然科学全体を律するような自然観が誕生した。…
…一般には,単なる統計上の規則性を超えて,より確固たる基盤の上に立てられたと考えられる秩序について用いられる語。ただし確固たる基盤を何に求めるかによって,法則についての解釈も異なることになる。ヨーロッパの伝統のなかでは,その基盤が神にゆだねられていたことは,ヨーロッパ語で〈法則〉を表す語が,どれも受動態で〈(秩序正しく)置かれたもの〉という原義をもち,それゆえ,能動者としての神がその背後に前提されている事実からも明瞭である。…
※「運動の法則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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