ダランベールの原理(読み)だらんべーるのげんり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダランベールの原理」の意味・わかりやすい解説

ダランベールの原理
だらんべーるのげんり

フランスの物理学者・数学者・哲学者ダランベールが導入した力学原理の一つ。力の作用の下で加速度運動をしている物体の運動を、ある仮想的な力を考えることによって、それらの力がつり合って平衡状態にあるとして静力学的に取り扱うことができることを述べた原理。物体の質量をm、働いている力をF、加速度をaとすると、ニュートン運動方程式はF-ma=0と書き換えることができる。このように書いたときの-maを一種の仮想的な力とみなすと、左辺は物体に働く力の合成を表しており、その合成した力が0になるということによってつり合いの条件となっている。内容としてはニュートンの運動方程式と同じであるが、運動している物体の動力学の問題を、静力学の問題に帰着させたことになる。ただし、ここでいうつり合いは、運動の各瞬間ごとに変化していく力の間に成立しているものである。具体的な例として、急に加速された車に乗っている人が、後ろのシートに押し付けられるように感じる場合を考える。これは本当に何かの力で押さえ付けられるのではなく、加速される前の状態を維持しようとする慣性のために体が取り残される結果おこるのである。このとき、シートが体を前に押す力と慣性による仮想的力がつり合っている結果、体がシートの上に静止しているとみるのがこの原理の意味するところである。この意味で-maのことを慣性抵抗または慣性力とよんでいる。また、本当に働いている力ではないという意味で見かけの力とよぶこともある。この種の力の例として、等速円運動をしている物体に関する遠心力がある。ダランベールの原理は、つり合いの条件を決定する仮想仕事の原理の形にいいかえて、力学法則の解析的な展開、すなわち解析力学の体系化のための有用な手段となった。

永田 忍]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダランベールの原理」の意味・わかりやすい解説

ダランベールの原理
ダランベールのげんり
d'Alembert's principle

動力学は,立場を適当に変えてみれば静力学と見直すことができるという力学の原理。慣性系において,力 f が働いたとき質量 m の質点の加速度が a であるとすれば,質点の運動はニュートンの運動方程式 fma によって決められる。しかし,この式を f+(-ma)=0 と書直せば,質点と一緒に動いている基準系からみると,質点は力 f と -ma とを受けて釣合っているとみなすことができる。-ma は慣性力と呼ばれるが,真の力ではない。この原理は 1743年 J.ダランベールによって導入された。解析力学では,この原理と仮想仕事の原理とを組み合わせて運動方程式が導き出される。

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