下痢を主症状とするウイルス性の伝染病。比較的新しい疾患で、1930年代後半から40年代前半にかけて欧米で報告されたが、日本では1948年(昭和23)1月ごろに新潟と山形の両県で原因不明の下痢症が大流行し、4、5月には全国的に流行がみられた。その後も毎年局地的な流行が認められたが、いずれも同じウイルス、すなわちエンテロウイルスによるもので、61年ごろから減少し、63年以降はほとんど発生をみていない。
伝染性下痢症にかかるのはおもに成人で、10歳以下の小児はほとんど罹患(りかん)しない。流行季節は冬から夏にかけてで、とくに3、4月に流行するが、環境衛生の不良な地域に多く発生する。ウイルスは患者およびウイルス保有者の糞便(ふんべん)や吐物中に出て飲食物に混入し、経口感染する。潜伏期は2~8日であるが、普通2、3日。食欲不振、倦怠(けんたい)感、腹鳴、腹痛などの前駆症状があって1日数回から十数回に及ぶ下痢が始まる。悪心(おしん)や嘔吐(おうと)もあるが、発熱は比較的少ない。便の性状は黄褐色の水様便で、粘液や血液が混じることはないが、腐肉様の悪臭がある。また量が多く(1日2、3リットル)脱水症状がみられる。これらの症状は軽ければ4、5日、長くても約1週間で治癒するが、高齢者や病弱な人は脱水症状で死亡することもある。
なお、1953年6月に千葉県茂原(もばら)市を中心に約6000名に及ぶ下痢症の大流行があり、茂原下痢症とよばれたが、これは伝染性下痢症とは異なったウイルスによる典型的な水系感染で、幼年者から高齢者まで広範囲な感染がみられ、一般的な食中毒症状で、死亡者はなかった。また、乳幼児や小児に多くみられる下痢症には、ロタウイルスやノロウイルスなどによるウイルス性下痢症がある。
[柳下徳雄]
『牛島広治編『ウイルス性下痢症とその関連疾患』(1995・新興医学出版社)』
ウイルスの感染によって起こる下痢症。病原体がウイルスであることは以前から知られていたが,組織培養法の開発によって,おもにエンテロウイルスであることが判明,さらに乳幼児に多い下痢症がおもにロタウイルスによることが確認された。下痢症を起こす既知ウイルスにはこのほか,アデノウイルス,レオウイルス,ノオオークウイルス,コロナウイルス,小型ウイルス粒子などがある。伝染性下痢症は冬を中心に散発的あるいは集団的に発生する。これらのうち,乳幼児嘔吐下痢症(白色便性下痢症,小児仮性コレラ)はおもにロタウイルスによるもので,嘔吐,下痢(便は水様性,初期しばしば白色便)という症状ではじまり,発熱や上気道症状(鼻みず,くしゃみ,のどの痛みなど)もまれではない。年長児では嘔吐がおもな症状となる。ノオオークウイルスによるものは,winter vomitingともいわれ,悪心や嘔吐がおもな症状で,年長児や成人に多い。以上のほか,既知ウイルスによる下痢症では,下痢より気道症状など他の症状が主となることが多い。診断は,電子顕微鏡によるウイルスの確認,血清学的検査,糞便中のウイルス抗原検索などによって確定される。治療は輸液療法による。
→下痢
執筆者:西村 忠史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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