日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝染性単球増加症」の意味・わかりやすい解説
伝染性単球増加症
でんせんせいたんきゅうぞうかしょう
欧米で確認されたエプスタイン‐バーウイルスEpstein-Barr Virus(EBウイルス)による感染症で、日本各地にみられる腺熱(せんねつ)リケッチア症とよく似た症状を呈する疾患。伝染性単核症あるいは伝染性単核細胞症ともよばれ、病原体が確認されるまでは腺熱の同義語として扱われたことがある。
臨床症状はきわめて多彩であるが、発熱、リンパ節腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛を主徴とする。思春期の男女に多くみられ、潜伏期は2~8週である。発病は一般に急で、しばしば高熱となり10日間くらい続く。リンパ節腫脹は発病後すぐにみられ、頸(けい)部にもっとも多く、しばしば全身のリンパ節に及ぶ。扁桃(へんとう)咽頭炎も重要な所見で、また約半数に脾腫(ひしゅ)がみられる。発疹(ほっしん)もしばしばみられ、体幹に多く出現するが数日で消失する。
血液所見としては、リンパ球の増加を伴う白血球増加がみられ、その50~60%がリンパ球あるいは単球(単核細胞)であり、病名の由来となっている。また、ウイルス疾患に特有な異型リンパ球も15%くらいみられる。血清反応としては、異種血球凝集反応(ポール‐バンネルPaul-Bunnell反応)の陽性化がみられるが、腺熱リケッチア症では陰性となるものが多い。肝機能障害はほとんどの症例にみられるが、黄疸(おうだん)を呈するものは少ない。特異な治療法というものがなく、対症療法が行われるが、予後は一般に良好で、死亡例はまれである。
なお、EBウイルスはヒトヘルペスウイルスの一種で、一度の感染によって終生免疫が成立する。また、悪性腫瘍(しゅよう)の一種であるパーキットリンパ腫および上咽頭癌(がん)の病因としても重要視されている。
[柳下徳雄]