日本大百科全書(ニッポニカ) 「リケッチア症」の意味・わかりやすい解説
リケッチア症
りけっちあしょう
rickettsiosis
リケッチア科に属する微生物を病原体とする感染症で、発疹(はっしん)チフス、発疹熱、ロッキー山紅斑(こうはん)熱、つつが虫病、日本紅斑熱、Q熱、五日熱などが含まれ、それぞれ病原リケッチアを異にする。多くは一度感染すると長期または終生の免疫が得られるが、発疹チフスの場合には再発例が報告されている。診断は、病原リケッチアを分離するか、補体結合反応などによる血清学的検査法によって患者血清中のリケッチアに対する抗体価が4倍以上の上昇を認めた場合に確定する。テトラサイクリンやクロラムフェニコールなどの抗生物質が特効的に効くが、これはリケッチアの増殖を抑制するだけであり、早期治療によって症状が回復しても体内にはリケッチアが残っているので、薬剤投与をすぐに中止すると再発することがある。なお、発疹チフス、ロッキー山紅斑熱、Q熱に対しては不活化ワクチンがつくられており、予防に用いられる。
[柳下徳雄]
日本紅斑熱
紅斑熱群リケッチアによる疾患は日本に存在しないとされていたが、1984年(昭和59)徳島県阿南(あなん)市につつが虫病とは異なる熱性発疹性疾患がみつかり、紅斑熱リケッチア症(日本紅斑熱)であることがわかった。その後、徳島県海部(かいふ)郡日和佐(ひわさ)町(現、美波(みなみ)町)、高知県室戸市、宮崎県からも報告された。ダニの刺し口が認められる点で、マダニ媒介リケッチア症と同じ疾患とみられている。潜伏期は2~8日間で、発熱および悪寒戦慄(せんりつ)をもって発病し、40℃前後の高熱が続き、かゆみを伴わない境界不鮮明な米粒大から小豆(あずき)大前後の紅斑が全身にみられ、やがて出血性となる。テトラサイクリン系抗生物質の投与により、症状は急激に軽快する。
[柳下徳雄]
腺熱リケッチア症
かつて腺熱とよばれていたもので、古くから西日本地方で地方病として知られていた鏡(かがみ)熱、日向(ひゅうが)熱、土佐熱などが含まれるが、近年はまったく発生をみていない。
1953~54年(昭和28~29)に病原体が発見・分離され、腺熱リケッチアRickettsia sennetsuと命名されたが、不明な点が多いところから分類が変更され、ロカリメア・セネツRochalimaea sennetsuとよばれたこともあり、現在では一般のリケッチアとは性状を異にすることがわかってエールリッキア・セネッツEhrlichia sennetsuとよばれている。病名も西日本腺熱症とよぶようになった。感染経路はまだ不明で、発熱、全身のリンパ節腫脹(しゅちょう)、多数の異型リンパ球を含む単核細胞の増多を主徴候とする急性熱性疾患である。
[柳下徳雄]