日本大百科全書(ニッポニカ) 「伸銅工業」の意味・わかりやすい解説
伸銅工業
しんどうこうぎょう
銅および銅合金(黄銅、青銅、洋白、特殊合金)を圧延加工し、板、条、管、棒、線などの伸銅品を製造する工業をいう。日本では伸銅の歴史は長く、奈良・平安の仏教文化に始まり、手打ち伸銅から水車利用の時代を経て、1870年(明治3)の大阪造幣局のロール圧延が近代工業としての出発点である。
伸銅品は、展延性、絞り加工、溶接性、耐食性、とくに電気・熱の伝導性に優れているため、古くから美術工芸、建築用材(屋根板など)に利用され、近代工業の導入とともに機械工業、とくに電気・精密機械の部品材料としてその特性が活用され、最近では端子、コネクター、半導体リードフレーム用などエレクトロニクス関連向け需要が大幅に伸びている。
生産量は終戦前のピークである1944年(昭和19)の13万トンに対し、戦後、高度成長期の機械工業の発展、耐久消費財の増加によって、73年(昭和48)には79万トンに急増し、アメリカ、旧ソ連に次ぐ世界第3位の生産国となった。同年末の石油危機以降、生産は50万トン台に急減・低迷したが、78~79年にかけてクーラー、建材、エレクトロニクス、輸出などの需要の拡大によって87万トン台に回復した。80年代には、第二次石油危機に伴う需要構造の変化(軽薄短小化)によって、生産量は減少傾向をみせていたが、83年以降、エレクトロニクス、弱電、自動車などの堅調な需要を反映し、83年88万トン(アメリカ107万トン、旧ソ連91万トン)、84年には100万トン、91年(平成3)の125万トンをピークに景気後退の影響を免れなかったが、その後漸増し、96年にはアメリカ(160万トン)に次いで2位(119万トン)となり、以下ドイツ(98万トン)、イタリア(79万トン)の順である。合金種別の生産割合は、銅と黄銅がほぼ拮抗(きっこう)し、9割以上を占め、微減増しているが、品目としては電気機械、とくに電子機械部品に使用されている各合金の条の伸びが著しい。黄銅製品では自動車ラジエーターのアルミ化の影響が今後大きくなるものとみられる。輸出はおもにアメリカ、中国、東南アジア(ここでの日本製品の占める割合は87%)向けに20万8000トンで、とくにマレーシア(5万5000トン)、香港(ホンコン)(4万5000トン)、中国(3万3000トン)の順で、台湾がこれに次いでいる。立地的には関東、関西に8割近い事業所が集中し、大手企業もこの地域に多い。黄銅製品には水栓・ガス機器が含まれ、中小企業メーカーが多い。
[殿村晋一]