住宅金融(読み)じゅうたくきんゆう

改訂新版 世界大百科事典 「住宅金融」の意味・わかりやすい解説

住宅金融 (じゅうたくきんゆう)

住宅(宅地を含む)の建設・購入,増改築に要する資金の貸付けをいう。融資の主体によって公的住宅金融住宅金融公庫等公的機関によるもの)と民間住宅金融民間金融機関によるもの)にわかれる。また資金利用者によって,個人向け住宅金融(日本では,これを住宅ローンという場合が多い)と住宅等の分譲・賃貸の事業のための事業者向け住宅金融に区分される。住宅金融は一般的に償還期間が長いので,個人向け住宅金融では,年収から支出可能な年返済額と自己資金で個人持家取得が可能になり,住宅取得能力を高める。また,事業者向け住宅金融では,初期の多額の必要資金を長期にわたる毎年の事業収益からの返済で調達でき,賃貸住宅等の事業投資・経営を容易にする。より長期で,金利が低いほどこれらの効果は大きい。住宅金融に対する公的施策には,公的住宅金融のほか,民間住宅金融に対する利子補給,信用補完,住宅ローン減税などがある。日本では郵便貯金等を統合運用する資金運用部資金があり,公的住宅金融が政策金融として重要な役割を担うが,アメリカ,イギリス等ではこの郵便貯金等のしくみがなく,公的住宅金融の比重が低い。

日本の住宅金融は,1950年に設立された住宅金融公庫によって始められた。民間金融機関は,1950年代半ばまで産業のための資金需要におわれて住宅金融に資金を図る余力がなく,本格的に住宅金融にのりだしたのは,1960年代半ば以降である。民間住宅金融は1965年以降貸付期間の長期化(都市銀行等での最長は1965年には10年,72年には20年),貸付金利の引下げ,住宅ローン保証保険等により,需要面から住宅金融の増大を可能にし,一方コンピューター活用により大量の事務処理体制を整え,個人向け民間住宅金融を急増させた(貸付残高は1996年末82兆円)。民間住宅金融は,昭和40年代の金融緩和期には急増したが,50年代には緩和期にも急増しなくなった。これは,持家需要が40年代までは資金供給面から制約されていたが,50年代には家計収入の伸び率が低まったうえ,地価・住宅価格が上昇したため,住宅取得能力面から制約されるようになり,これに対応した貸付条件の改善が民間では制約があったからである。

 このような状況のもとで,公的住宅金融は,1970年代半ば以降著しく増加した。住宅金融公庫の貸付契約戸数は,1973年度30.9万戸から78年度60.5万戸,96年67万戸となっている。この背景には,貸付期間を1978年に木造18年から25年に延長したことや,一戸当り貸付額限度をひきあげたことなど,貸付条件の改善があった。また年金福祉事業団も1973年に被保険者貸付けをはじめ,昭和50年代に急増した。しかし,1980年度以降,国の一般会計,郵便貯金の伸び率の鈍化等により公的住宅金融もいままでのように増加できなくなった。

 一方,民間住宅金融では,地価等の上昇にともなう個人の住宅取得能力の低下に対応して親と子が共同して借り入れる親子ローン(個別債務方式と連帯債務方式がある。1979年11月開始)や,退職金引当ローン(退職時まで7年以内で元金返済据置き)など,貸付条件の新たな改善がなされている。また,住宅ローン減税のほか変動金利制,住宅貸付債権の流動化策などが民間住宅金融の拡大のための課題となっている。

(1)民間住宅金融。(a)融資機関 民間住宅金融は都市銀行,地方銀行,相互銀行,信用金庫労働金庫,住宅金融会社などほとんどの金融機関が行っている。このうち,住宅金融専門会社(住専と略称)は,専門の住宅金融機関として銀行,保険会社によって1971年ごろから設立された(1979年には8社)。専ら母体銀行等からの借入資金によって金融を行っており,金利は都市銀行等よりも年利で1.5%程度高いが貸付期間が長く(最長30年),物的担保のみの貸付けに特色がある。住専はバブル経済が崩壊した90年代初めに大量の不良債権を抱えて経営危機に陥り,8社中7社に母体銀行等が金利減免などによる再建策を採ったが,95年には行き詰まった。96年度予算案で政府・与党は債権・債務を引き継ぐ住専処理機構を設立し,公的資金も投入することとしたが,国民的批判にさらされた。(b)融資対象,貸付条件 住宅・土地(中古含む)の購入,新築,増改築のための資金を融資対象とし,1979~80年ごろから建替えの取りこわし費用や買替えのつなぎ資金を融資する金融機関もでてきている。貸付期間は都市銀行等では最高20年が一般的だが,1980年ごろから25年とする地方銀行等もあらわれた。金利は,都市銀行等では長期プライムレートと連動してきめられることが多いが,近年はこのレートを住宅ローン金利が下回ることもあり,返済方式も多様化している。(c)住宅ローン保証保険 住宅融資の際,物的担保のほか連帯保証人による人的保証が求められるが,1965年に損害保険会社により塡補率100%の住宅ローン保証保険制度が設けられ,人的保証が不要となった。また,多くの金融機関が自ら信用保証会社を設立している。

(2)公的住宅金融。(a)住宅金融公庫融資 公庫融資は貸付期間が長期(木造25年,耐火35年)で低金利(ただし1982年10月以降段階金利制)であるため,利用者にとって,もっとも有利な融資となっている。一戸当り貸付額も年々増加し,公的住宅金融の主力となっている。沖縄県では沖縄振興開発金融公庫が公庫融資と同様な融資を行っている。(b)厚生年金還元融資 年金福祉事業団が事業主に対する社宅等建設資金融資と厚生年金被保険者に対する被保険者住宅資金貸付け(1973年度以来)を行っている。後者は事業主を通ずる転貸融資が主力であるが,転貸融資をうけられない者に対して,住宅金融公庫が同事業団から委託をうけて貸付けを行っている。貸付額は被保険者期間によって異なる。(c)地方公共団体のあっせん融資等 おもな地方公共団体のほとんどは,地域住民に対し,低利の直接住宅貸付けまたは融資をあっせんして一定期間利子補給を行う制度を設けている。金利は地方公共団体によって異なる。融資対象は住宅金融公庫とほぼ同じだが,貸付期間は公庫より短いものがある。(d)住宅積立貯金者に対する住宅融資 低利で住宅貯蓄した者に対する有利な条件での住宅融資の制度は,西ドイツの建築貯蓄金庫,フランスの住宅預金貸付制度がある。日本では,住宅金融公庫の住宅宅地債券制度等がある。住宅積立郵便貯金・財形貯蓄の預金者等への融資(割増し,低利融資等)も,これに似ているが,これは,預金金利が一般金利と同じで,とくに低くない点が住宅宅地債券制度と大きく異なる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「住宅金融」の意味・わかりやすい解説

住宅金融
じゅうたくきんゆう

個人が住宅を建設したり購入したりするときの、いわゆる住宅取得のための資金の融通。対象が個人という意味では個人金融の一種であり、企業金融とは区別される。また、住宅建築投資のための資金の融通であるため、長期金融の一種といえる(長いものでは25~30年のローン)。さらに、通常は取得する住宅および土地に抵当権を設定することから抵当金融の一種といえ、金融機関の側からはリスクが小さいといわれるが、借り入れる個人の将来所得を予見して、返済能力をみたうえで貸し出すのが通例である。住宅が個人の生活の基盤をなすことから、住宅金融は企業金融とは異なり、福祉的性格をもっているという見方もあり、資金の供与量、金利などの貸付条件について特別の配慮がなされることが多い。

 住宅金融機関には公的住宅金融機関と民間住宅金融機関とがある。公的住宅金融機関は、民間住宅金融を補完し、住宅政策の観点から、個人の持ち家の促進と住宅居住水準の向上に資することを目的としている。具体的には、雇用・能力開発機構(旧、雇用促進事業団)、地方公共団体がその担い手である。民間住宅金融機関には銀行などの一般金融機関、住宅金融専門会社(住専)、生命保険会社などが含まれる。一般民間金融機関は、特別のものを除いて、比較的短期の性格をもった預金を原資として長期の住宅金融を行うことから金利リスクが発生する可能性が高い。そこで住宅抵当証書を発行して、住宅ローン債権の流動化を図っている。ただし、住宅金融専門会社は自らの資金調達手段をもたず、もっぱら系列関係にある一般民間金融機関からの借入金に原資を依存していたため、住宅金融の専門性は高いが、資金供与量に限界があるところが問題となり、1990年代前半にバブル経済が崩壊するとともに、各社とも多量の不良債権をかかえこみ、経営が行きづまって破綻(はたん)した。

 住宅金融は長期金融であるところから、信用保証機能が重要である。一般民間金融機関は住宅金融専門の保証会社を系列にもち、保証を行わせるほか、万一に備えて借り手に生命保険への加入を要請する。また、公的金融機関(地方公共団体等)が信用保証機能を果たしている。

 住宅金融の貸出残高は、2005年(平成17)12月末で約176兆円である。国内銀行の残高は同時点で約95兆円である。一方、長年、公的住宅金融の一翼を担ってきた住宅金融公庫(現、独立行政法人住宅金融支援機構)の残高は、同時点で約45兆円(公庫買取債権を含む)、シェアは約25%と、2000年の40%から縮小傾向にある。これは2001年12月に住宅金融公庫の廃止・独立行政法人への移行が決定されたことを受け、民間金融機関がローン金利を低く抑えるだけでなく、長期・固定金利型や特定の疾病にかかったときにローンの返済を保証する新商品の開発・販売を加速させたことが背景にある。

[原 司郎・北井 修]

『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第2版(2006・東洋経済新報社)』『全国銀行協会金融調査部編『図説 わが国の銀行』2007年版(2007・財経詳報社)』

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