住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネットと略称)とは、全国の区市町村の住民基本台帳と都道府県/指定情報処理機関をネットワークで結び、本人確認に必要な最小限の情報を全国的にやりとりする仕組みである。この情報は、氏名、生年月日、性別、住所の四つに、その変更年月日および変更理由と住民票コードを加えたもので、戸籍事項や続柄などは含まれない。住民票コードは全国民の住民票に一斉につけられる11桁(けた)の番号で、2002年(平成14)8月に各世帯に通知された。コンピュータで管理され、不規則につけられるため、住民票コードから住所や生年月日などを推測することはできないようになっている。また番号は、住所や氏名の変更があっても変わらないが、本人の希望により変更することができる。
この制度は2002年8月5日から、一部の不参加区市町村を除き全国一斉に稼動した。そして2003年8月から、住民基本台帳カードが発行されている。カードには、本人確認情報が記録されており、写真を貼(は)って、広く身分証明書としても活用することができる。これまでは、住民票の写しは居住地の区市町村でしか交付されなかったが、このシステムの稼動により、全国どこの区市町村でも交付を受けられるようになる。転出入の届出は転入時1回だけになり、年金、雇用保険、児童扶養手当など各種行政手続の際に必要であった住民票の写しの添付が不要になる。このカードは電子申請には不可欠で、政府は、21世紀の行政情報化の社会基盤となるという。しかし、この程度の利用では数百億円に上る費用の割にメリットが少ないので、政府は制度の利用を拡大し、いずれは国民総背番号制を狙っているのではないかという疑念が絶えない。
本人確認情報の利用は、法律で決められた機関が、法律で決められた目的にのみ利用することができ、他目的利用は禁止され、民間機関での利用は禁止されている。外部からの侵入防止措置も図られ、公務員には「秘密保持」義務が課される。しかし、あわせて一体として整備するはずであった個人情報の保護に関する法律は、住基ネットが始動した2002年8月の時点ではまだ成立していなかったため、プライバシー侵害のおそれが大きいという批判がおきた。
[阿部泰隆]
行政機関が保有する個人情報に関しては、1990年に全面施行された「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」があったが、その内容について不備が指摘されていた。そのため、住基ネット開設のための住民基本台帳法改正において、その附則として、政府は個人情報の保護に万全を期するための「所要の措置」を講ずることと定められたのである。しかし、その「所要の措置」である個人情報保護法案は成立まで難航し、ようやく2003年3月になって成立し、同年末に公布された。
なお、住民基本台帳カードは2008年3月末現在で、全国累計約234万枚公付されている。
[編集部]
『黒田充著『「電子自治体」が暮らしと自治をこう変える――住基ネットとICカード、電子申請の何が問題か』(2002・自治体研究社)』
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