国・地方公共団体などの行政主体または行政体の行政組織の基礎的単位であり,一般に行政主体法人のためにそれを代表して現実の行政活動を行い,その活動の法的効果が行政主体に帰属するものをいう。しかし,現行法制上は,2種の異なる行政機関の概念が存在するとされている。
その第1は〈権限配分の単位〉または〈権限の担当者〉としての行政機関概念である。これは,一般に行政主体の行政事務・権限を担当する職または地位を指すが,さらに,行政組織法上の権限に着目するものと,行政作用法上の権限に着目するものとに区別される。前者の例としては,内閣法により内閣総理大臣に行政各部の指揮監督権(6条)などを定めたり,地方自治法により主務大臣や知事に長の処理する国の機関委任事務の指揮監督権や取消・停止権(150,151条)などを定める場合の内閣総理大臣や主務大臣・知事がある。後者の例としては,道路交通法により都道府県公安委員会に交通規制権限(4条)などを定めたり,行政不服審査法,行政事件訴訟法により一般に〈行政庁の処分〉を規定する場合などがある。この意味での行政機関概念においては,行政主体の意思・判断を決定し,外部の相手方に対してこれを表示する権限を有する行政庁(国のそれを一般に〈行政官庁〉という)を中心として,その他の補助機関,参与機関,諮問機関,執行機関などが配置される。
これに対して,その第2は,〈事務配分の単位〉または〈任務の担当者〉としての行政機関概念である。これは,個々の権限ではなく,第1の意味における行政庁その他の行政機関を含めた行政機能遂行のための職の総合体または複合的組織体(これを〈行政官署〉ともいう)をいう。その例としては,国家行政組織法による国の行政機関としての府・省・委員会および庁(3条2,4項。具体的には同法別表1に掲げる1府12省8委員会24庁を指す)があり,広義では会計検査院や人事院なども含む。
このように,現在,2種の行政機関概念が混在しているが,従来支配的であるのは第1の意味での行政機関概念およびそれを基点とする〈行政官庁理論〉であった。この概念・理論は,対外的・形式的権限を中心に構成されており,現実の行政過程とくに意思決定プロセスを正確に把握しかつその適正化を重視するという点では欠陥をもつが,しかし,だれがいかなる手続に基づきいかなる場合にいかなる権限を行使しうるかを法律で明示すべきことを要請する〈法律による行政〉の原則と密接な関係をもっており,行政作用法論や行政争訟法論との対応において,現在でもなお有用性をもつとされている。これに対して,第2の意味での行政機関概念は,事務配分の合理化,その管理の適正化,内部的責任の所在の明確化などの行政(組織)の内部管理や行政決定過程の適正化(司法的コントロールを含む)などに有効とされる。このように,現行法上の2種の行政機関概念は,相互に排斥しあうのではなく,むしろ相互に修正・補完する関係に立つこともあるとされている。
執筆者:間田 穆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
行政主体の行う個別的行政事務の担当者。現行制度上相異なる二つの行政機関概念がある。
(1)行政作用法上は行政主体の意思を決定表示する機関を行政庁とし、行政庁概念を中心として行政機関概念を構成する。ドイツ法に由来する考え方で、処分権の所在すなわち責任の所在を重視する。行政庁としては各省大臣、庁(社会保険庁等)の長官、知事、市町村長、税務署長、福祉事務所長など独任制の行政庁と、公正取引委員会、国家公安委員会、教育委員会、選挙管理委員会のように合議制のものがある。人事恩給局長は内部部局(内局)の局長であるが恩給の裁定につき行政庁となる例外的存在である。行政庁は行政処分取消訴訟の被告ともなる(行政事件訴訟法11条)。行政庁の権限行使を補助するのみで、それ自体は外部に対して行政庁の意思を決定表示する権限を有しないのを補助機関という。各省庁の次官、局長以下内局の職員、都道府県の副知事以下の職員、市町村の副市町村長以下の職員がこれにあたる。諮問機関は行政庁の諮問に対し答申しまたは意見を具申する機関である。行政庁は処分を行うにあたり諮問機関の意見を尊重するとしても、それに拘束されない。各種審議会、調査会がこれにあたる。これに対して、行政庁の意思決定の前提として議決をなす機関を参与機関という。電波監理審議会(電波法94条)がその例である。行政庁が国の意見を決定するときはその議決に基づいて行う。このほか、行政庁の命を受け、または法律に基づいて実力を行使する機関を執行機関という。警察官、消防職員、徴税職員等がこれにあたる。行政機関の行う行政を検査し、その正否を監査する機関を監査機関といい、国の会計検査院、地方公共団体の監査委員がこれにあたる。
(2)国家行政組織法上は行政機関として省、庁、委員会等を中心とした分類を用いる。これは前記の行政庁、補助機関等を包括した概念である。これは第二次世界大戦後アメリカから輸入された考え方で、行政組織の所掌事務や内部部局の組織、事務分担を定めるのに便利である。
府・省とは、内閣府・各省のことで、その一般的権限については国家行政組織法が定め、その個別的権限については各府省設置法が定めている。府・省には官房・局・部・課・室等の内部部局、審議会等、施設等機関、特別の機関、地方支分部局を置くことができる。委員会・庁は府・省の外局である。委員会は合議制の行政官庁であるが、庁は独任制で、ミニ省的性格を有する。
[阿部泰隆]
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