母体の健康や経済的理由などから妊娠しては困る場合には避妊を続け、子供が欲しくなったら避妊をやめて妊娠できるように、受胎を人工的に調節することをいう。なお、産児制限というのは人口抑制を目的としたものであり、家族計画と表裏一体をなす受胎調節とは趣(おもむき)を異にする。また、手段としては人工的に妊娠を避ける方法を含む意味で避妊法と同義にもみられがちであるが、不妊法に含まれる永久避妊法、あるいは妊娠後に行われる人工妊娠中絶などは、受胎調節とはまったく別のものであって、受胎調節に応用される避妊法は一時的避妊法、すなわち受精阻止と受胎阻止に大別されるものである。以下、実用的な項目に分けて述べる。
[新井正夫]
排卵日の前後数日間だけ禁欲して受精を避ける方法であり、排卵日を予想する方法に次の2種がある。
(1)荻野(おぎの)式受胎調節法 月経周期が規則的に正しい間隔でくる女性だけに応用される。28日周期の女性では、月経第1日目から数えて第14日目の前3日間と、後2日間の5日間をもっとも妊娠しやすい日として性交を避ける。この方法では、月経周期が不規則な場合に失敗例が多くなる。
(2)基礎体温表を応用する方法 毎日、基礎体温を測定してグラフに記入し、基礎体温曲線が高温相になって2日経過すればほとんど妊娠しないと考えてよく、3日目以後から性交を行う方法である。しかし、これも、高温相になったか、まだ低温相なのか、はっきり決めにくいことがしばしばある。
[新井正夫]
避妊器具や薬品を使う方法と性交中絶法とがある。
(1)器具や薬品を使う方法 もっとも一般的なものは、男性が性交時にコンドームを用いて受精を阻止する方法である。薄いゴム製のコンドームを男性の性器にかぶせて用いるため、男性側に使用感を伴うという欠点があり、女性側にも心理的な問題などを含むいろいろな欠点が指摘されているが、失敗例が比較的少ないこと、入手が容易でだれでも使えることなどの長所が男性側の避妊法としてはほかよりも優れている。近年は品質も向上し、破損による失敗もあまりなくなってきた。
ほかに、精子をつくる力を弱める目的で男性に避妊薬を用いることもあるが、女性のピル(経口避妊薬)のように効果が高くて可逆性のあるものは開発が困難で、まだ実用化されていない。
(2)性交中絶法 腟(ちつ)外射精法ともいい、射精前に性交を中断し、腟外に射精する方法である。腟内に精液を入れないようにして妊娠を避けることを目的とするこの方法は、特別な器具を必要とせず、安易に行えるという長所もあるが、避妊目的のために性感を味わうという目的を犠牲にするばかりでなく、決定的な欠点として失敗の危険が大きいことがあげられる。
[新井正夫]
器具を用いる方法と薬品を使う方法とがある。
(1)器具を用いる避妊法 器具としてはIUD(子宮内器具)やペッサリーがある。
IUDは避妊リングとして知られ、子宮腔(くう)内に異物を装着して受精卵の着床を阻止する避妊法である。大部分はプラスチック製であり、形状はリング、ループ、プレート、T字形など多種類で、銅や黄体ホルモンを付加して避妊効果をさらに高めようとするものも考案されているが、いずれも経口避妊薬に次ぐ避妊効果が認められている。しかし、装着中の副作用として不正出血、過多月経、月経困難症、帯下(たいげ)(おりもの)の増加や下腹部痛などがあり、これらの症状があまり強ければ除去する必要がある。また、自然脱出することもある。なお、性器に炎症がある場合や過多月経、子宮筋腫(きんしゅ)の患者に使用することは望ましくない。
ペッサリーは帽子状のゴム膜の縁に細いピアノ線を螺旋(らせん)状に巻いて輪にしたもので、腟内に入れて子宮口をふさぎ、精子が子宮内に入るのを防ぐ一種の受精阻止法である。使用法は医師や助産師、または保健師の受胎調節指導員に指導してもらい、自分自身で挿入できるようにする。ペッサリーの内面に殺精子剤を塗って使う場合が多い。性交前に装着しておき、性交後も放置して翌朝除去する。せっけんで汚れを落とし、水分をふき取ってパウダーを振りかけ、乾燥させておく。挿入技術に熟練すれば、失敗例は少なくなる。子宮後屈や子宮下垂の患者、腟腔が狭い場合には不適当である。産後や体重が著しく変化したときには、サイズを測定し直す必要がある。
(2)薬品を使う避妊法 腟内に挿入して用いる薬剤や腟洗浄用の薬剤のほか、もっとも避妊効果が高いとされている経口避妊薬がある。
錠剤、避妊フィルム、ゼリー剤などの薬剤は、いずれも腟内に入れておいて、射精された精液中の精子を化学的に殺してしまう方法である。この殺精子剤はポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルpolyoxyethylenenonylphenyletherやメンフェゴールmenfegolを主剤としたもので、デンプンなどで固形化したものが錠剤、ポマード状のものに含有させたのがゼリー剤、である。薬剤単独で避妊効果を期待することはできず、ペッサリーの内面などに塗って使用されることが多い。
性交直後の腟洗浄は、温水や希薄な酢酸液や乳酸液などで腟内を洗浄する方法で、性交直後だけに煩わしいばかりでなく、避妊効果も低く、受胎調節法としては推奨しがたい。
経口避妊薬による避妊法は、エストロゲンestrogen(卵胞(らんぽう)ホルモン)とプロゲステロンprogesteroneという卵巣から分泌される2種類のホルモンの混合剤を使って排卵を抑制することにより避妊の目的を達する方法で、受胎調節法のうちで避妊効果がもっとも高い。ステロイドホルモンを用いるところからステロイド避妊法ともよばれ、いわゆるピルが代表的なものである。普通は5~10ミリグラムの混合剤を1日量として月経周期の第5日目から投与を始め、21日間服用する。服用中止後、数日で出血がみられるので、その出血第1日目を月経第1日目として数え、第5日目からふたたび服用を開始する。これを繰り返すわけで、失敗例の報告はまれであり、ほとんど100%に近い成功率とみてよい。しかし、長期間服用するため、医師の監視が必要であり、とくに肝機能検査をたびたび行ってチェックするほか、胃腸障害、食欲不振、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)などの副作用にも注意する必要がある。
[新井正夫]
また、性交後の緊急避妊として、着床・受精を防ぐための緊急避妊薬(緊急避妊ピル、モーニングアフターピルなどとよばれる経口のホルモン剤)を性交後72時間以内(できるだけ速やかに)に服用する方法がある。国内では2011年(平成23)に初めて緊急避妊薬(処方薬)としてレボノルゲストレル(商品名「ノルレボ」)が発売され、避妊措置に失敗したり、性犯罪被害にあった場合等で、望まない妊娠を回避するために緊急的に使用することができるようになった。その性格上、保険適用外(自由診療)となるが、処方を希望する場合には、緊急避妊薬の取扱いがある医療機関(産婦人科)を受診する。なお性犯罪被害者に対し、各都道府県警察では緊急避妊費用の公費負担を行っている。
[編集部 2020年9月17日]
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…ただ人口を減少させるのが目的ではなく,人間文化の発展につれて自分の境遇を自分の手で変えていく一つの方法として重要な意義がある。家族にとって望ましいときに子どもが生まれてくるよう,妊娠,分娩に計画性を持たせることを家族計画といい,避妊などにより妊娠の時期を調節することを受胎調節というが,産児制限と必ずしも厳密に使い分けられてはいない。マルサスは《人口論》(第2版,1803)で,過剰人口,貧困の解決策として道徳的抑制すなわち結婚の延期と禁欲による人口の制限を提唱している。…
…動物とは異なり,ヒトは生殖を目的としない性交を行うことから,妊娠を希望しない場合は,避妊によって妊娠を防ぐ必要が生じる。避妊は医学的には〈受胎調節〉と呼ばれることが多く,社会制度上も母体保護法に受胎調節実施指導員の規定がある。似た言葉に〈産児制限〉〈家族計画〉がある。…
※「受胎調節」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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