日本大百科全書(ニッポニカ) 「体質心理学」の意味・わかりやすい解説
体質心理学
たいしつしんりがく
constitutional psychology
個人が生まれながらにしてもっている形態的・機能的な身体的要因を研究する心理学の一分野。1940年にアメリカの心理学者シェルドンWilliam Herbert Sheldon(1899―1977)は体質心理学を主題とした本『The varieties of human physique』を著しているが、現在では素質、気質、形質などを包括した性格と関連づけて言及されることが多い。体質とは身体の資質であり、この資質には形態的資質―体型(形質)、機能的資質―生理的・病的反応特徴(素質)、精神的資質―気質・性格・知能(気質)といったものが分類されている。その意味で、体質は「すべての精神的・身体的な人間の資質の総和である」と定義することができる。
[山崎勝男]
クレッチマーの学説
ドイツの精神医学者E・クレッチマー(主著『体格と性格』Körperbau und Charakter 1921)は、内因性精神病の各病型と体型との関係から、さらに性格の領域まで広範な研究を行った。彼の体質診断基準である、やせ型(細長型)、太り型(肥満型)、筋骨型(闘士型)の特徴は以下のとおりである。
(1)やせ型(細長型) 縦の長さの発育に対して、横の厚みの発育が劣る。体重、太さ、幅がそれぞれ少ない。皮膚乾燥。貧血性。筋の発達不良。胸部長扁平(へんぺい)。季肋弓(きろくきゅう)鋭角。腹部脂肪蓄積が少ない。腹囲、胸囲小。繊細な肩甲骨(けんこうこつ)。
(2)太り型(肥満型) 頭蓋(ずがい)、腹腔(ふくくう)、胸腔の周囲が大。体躯(たいく)の脂肪蓄積が豊富。運動器官は比較的弱い。ずんぐりしていて首は短大。柔軟な広い顔。四肢は丸みを帯びる。皮膚は柔らかい。
(3)筋骨型(闘士型) 骨格、筋、皮膚の強度の発達。身長は平均または大。広く厚い肩と胸。充実した躯幹腹部。長・大・強・直な首。手足は大きく強い。
また、内因性精神病と体型との関係では、統合失調症とやせ型、そううつ病と太り型との強い親和性が指摘されている。彼は患者の病前性格や近親者の性格を調べ、患者の遺伝圏内にある性格傾向を、それぞれ内閉性気質、循環性気質、粘着性気質と名づけ正常者への適用も試みた。気質の主要な特徴は以下のとおりである。
[山崎勝男]
気質の主要な特徴
〔1〕内閉性気質 (1)非社交的、もの静か、内気、きまじめ、変わり者。(2)臆病(おくびょう)、恥ずかしがり、敏感、傷つきやすい、神経質、興奮しやすい、自然あるいは書物を友とする。(3)従順、お人よし、温和、無関心、鈍感、愚鈍。
〔2〕循環性気質 (1)社交的、善良、親切、温厚。(2)明朗、ユーモアに富む、活発、激しやすい。(3)口数が少ない、平静、陰気、気が弱い。
〔3〕粘着性気質 (1)固執性、熱中性、几帳面(きちょうめん)、秩序を好む。(2)ものの考え方の回りくどさ、テンポが遅い、融通が効かない、人にていねい。(3)爆発的に怒る、かたくなに意見を主張する。
この3気質は体型と親和性があり、内閉性気質はやせ型、循環性気質は太り型、粘着性気質は筋骨型と対応する。
[山崎勝男]
シェルドンの学説
シェルドンは、正常人を対象に身体部分の17か所の測定値と身長の比を統計的に分析し以下の3類型を明らかにした。
(1)内胚葉(ないはいよう)型 内胚葉を起源とする消化器官の発達がよく、柔らかく肥満体。
(2)中胚葉型 中胚葉を起源とする筋、骨の発達がよく、角張った、がっちりした体格。
(3)外胚葉型 外胚葉を起源とする皮膚組織、感覚器官、神経組織の発達がよく、弱々しい体格。
内胚葉型はクレッチマーの太り型、中胚葉型は筋骨型、外胚葉型はやせ型に該当している。この体型分類に対応する性格特性は以下のとおりである。
[山崎勝男]
性格特性
(1)内臓型性格(内臓緊張型気質) 安楽、緩慢、貪欲(どんよく)、社交的、寛容、自己満足など。
(2)身体型性格(身体緊張型気質) 粗い動作姿勢、精力的、運動好き、権力欲、大胆率直、荒々しい攻撃性、苦痛への強さ。
(3)頭脳型性格(頭脳緊張型気質) 堅い動作姿勢、尚早反応、引っ込み思案、過敏心配性、表出抑制、社交嫌い、苦痛への弱さ。
このように、内胚葉型は内臓型性格と、中胚葉型は身体型性格と、さらに外胚葉型は頭脳型性格とそれぞれ高く相関している。また体型を介してクレッチマーの気質との対応関係も指摘されている。
[山崎勝男]
『エルンスト・クレッチメル著、相場均訳『体格と性格』(1960・文光堂)』