改訂新版 世界大百科事典 「作業研究」の意味・わかりやすい解説
作業研究 (さぎょうけんきゅう)
work study
人および機械などの作業手段が対象体をある状態から他の状態へ変えるために行う活動を作業といい,作業手段とこの作業活動を作業システムという。作業システムの優秀性は,生産課題に対しての品質性能,コスト性能,生産能力性能が優れていること,故障しにくく保全性がよいこと,品種切替えが容易なこと,床面積が小さく空間占有が少ないこと,安全・快適・美観など人間性性能が優れていることによって決まる。この優れた作業システムの実現が作業研究の課題である。
作業研究は人間行動の歴史とともに存在してきたが,工場生産においてこれを組織的に行ったのがF.W.テーラーである。彼は20世紀初めころ,出来高賃金制度の基準となる作業量が1日の公正な仕事量として客観的に存在するはずだという思想に立って,これを見いだすため,時間研究time studyをはじめとする各種作業への実験科学的研究を行った。ギルブレス夫妻F.B.& L.M.Gilbrethは,人が行う作業には必ず唯一最善の作業方法が存在するはずだという思想に立ち,人間の動作を分析する微細単位のサーブリッグtherblig(ギルブレスの逆綴りによる名称)を開発し,最善作業方法を求める動作研究法motion studyを確立した。作業研究は長い間この両者の技法を軸に,motion and time studyとして発展してきた。ここで,両者がそれぞれ〈公正な基準仕事量〉と〈最善作業方法〉を考え,それを探究するための技術開発を行っていることが注目される。
生産はその後,変化し多様化している市場を相手に,設備化と自動化を進めつつ,さらに大規模な工場システムへと発展した。このような推移を受けて作業研究は,製品生産過程を一貫的にトータルとしてとらえる工程研究,マン・マシンシステムや自動化の進んだ作業の研究,および人間の動機づけ,集団の活性化などの精神科学的方法等へと発展してきた。このようにして開発された作業研究の手法は多数あるが,それらは工程技術,方法技術,作業測定,人間性技術などに大別される。
工程技術は,材料が製品になっていくまでの加工変化の過程に関する技術である。たとえば,素材としての鉄板から何工程かを経て自動車の車体ができ,さらに工程を経て他部品と組み合わされ完成車になる。このように製品生産は実に多くの工程を経るが,どのような工程段階をたどるようにしたらよいかを決めるのが工程技術である。一般に工程段階を多くすると,一つの工程での作業システムは容易になるが,総工程が増えるため,総作業量,工程間の移動・滞留の問題が生ずる。この総合適正化が工程技術の課題である。
方法技術ではまず第1に,作業活動における人間と機械設備の分担関係を決めることから始まる。すべての作業活動は,(1)品種切替えの段取り替え作業,(2)材料,製品の取付けと取外し,(3)工具の接近と離脱,(4)主加工,(5)検査,(6)保守からなっている。このうち主加工のみを機械化する段階,工具の動きまでを機械化する段階,さらに取付けと取外しを含めて機械化する段階がある。これが今まで作業の機械化自動化の到達してきた姿である。最近,さらに品種切替えに関する工具や治具の交換をコンピューターで自動的に行って多品種自動化生産を可能にしたフレキシブル生産システムの進展が目覚ましい。機械化の段階に対応して,1人1台持ち,1人数台持ち,さらには無人化に近い1工場へ少数人配置の人・機械関係の作業となる。ここにおける人の動作研究は,サーブリッグ分析,VTRによる分析などが有効である。作業者の動作としては,手の動きの停止状態をなくして両手活動率を高めること,作業の主目的に対して有効性の少ない移動的動作量を短縮することが,人作業を優れたものにしていくための定石となる。このようにして方法技術は,各工程の作業システムを優れたものにしていくため,人・機械設備の計画とその活動方法についての標準作業を設計することを役割とする。
作業測定は作業時間を明らかにするための測定をいう。作業時間を測定するのは,(1)仕事の進行計画,(2)原価の算定,(3)能率の評価,(4)工程設計を行うためである。作業時間には標準時間と実際時間がある。標準時間とは,改善され,標準化された作業活動内容を,適切な工器具を用いて,標準技能の作業者が正常な努力の作業速度で行うときの製品1単位当りの所要時間をいう。標準技能よりも高い,または低い現実の作業者による時間が実際時間である。先の四つの目的に対して,とかく標準時間が用いられがちであるが,能率評価以外には実際時間の使用が適切である。使用目的による作業時間の許容精度を考えて,できるだけ簡易な時間設定法を用いるのがよい。簡易な順に作業時間設定の手法をあげると,経験見積り法,ワークサンプリング,ストップウォッチ法,時間公式・標準資料法,MTM(methods time measurement),WF(work factor)などがある。ストップウォッチ法は,ある作業活動の全部を観測してそれを構成する要素作業ごとの時間をとらえ,作業時間を設定する方法であり,これに対してワークサンプリングは,作業活動の中からサンプリング時点の現象のみを観測して統計的に推定する方法である。MTMとWFは,人間作業を構成する基本動作の種類が限定されることから,すでに開発されている基本動作の区分とそれに必要な標準時間の表を用い,作業の基本動作分析を行い,それに時間値を与え,これらを合成してもとの作業の標準時間を設定する手法である。
人間性技術としては,人間の五感や身体部位の機能と機械や設備との間の情報的・行動的特性に関する人間工学の活用が,また日本において盛んなQCサークル活動など小集団活動の方法が有効である。後者は最近世界的に注目されている。
執筆者:熊谷 智徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報