人間工学の定義の仕方には、研究者によって多少の違いがみられる。国際人間工学会では、人間工学を独立した専門領域として次のように定義している。「人間工学は、システムにおける人間とほかの要素とのインタラクション(相互作用)を理解するための科学的学問領域である。また人間工学は、人間の安寧とシステムの総合的性能との最適化を図るため、理論・原則・データ・設計方法を有効に活用する専門的職域である。人間工学者は、人々の要求・能力・限界等に適用するよう、仕事・製品・環境・システム等を設計し評価する役割を果たしている」。
道具は物を加工するという働きをもち、その働きを遂行するための握りの部分(柄(え)など)を備えていて、その両者の関係が適切でないと十分な効果を発揮することができない。たとえば、物を加工するという働きからみて、どんなに優れた機能をもつ道具であっても、その道具を使って仕事をするとき、手と道具との接触面である握りの部分、つまり把手(とって)の形態や大きさなどが作業者の手の大きさや手の筋力に見合ったものでないと、道具としての十分な効果が得られないばかりか、その道具を使って仕事をする人間に余分な負担がかかることになる。
このことは、道具ばかりでなく、機械を操作したり、システムを制御したりする場合も同様である。作業者やオペレーターが、機械やシステムに関与する際の接触面(インターフェースinterfaceとよばれる)、たとえば表示装置や制御装置などが、人間のもっている形態的・生理的などのさまざまな特性に見合った考慮を払った形で装備されていないと、作業者やオペレーターに生理的な負担がかかり、機械操作やシステム制御に際しての効率が悪くなるばかりでなく、安全性をも欠くことになる。コンピュータと対話する際の、ディスプレーが表示装置であり、キーボードが制御装置に相当する。
つまり、人間工学とは、道具の使用、機械の操作、システムの制御などに際し、その作業環境をも含めて、人間の形態的・生理的な諸特性を取り入れることによって、道具の使いやすさや機械、システムの操作特性などを向上させ、作業者の負担を軽減すると同時に、作業効率をあげ、安全性を高めようとすることを目的とする関連領域の学問である。
[内田 謙・斉藤 進]
人間と道具の適応は、すでに古代の石斧(せきふ)に柄がつけられていたことに始まる。以来、人間は道具や機械の使いやすさを、先人たちの長い経験のなかに学んできた。「人間工学」ということばは、19世紀、ポーランドの科学者の造語である。
人間工学の歴史的な流れには、人間の労働に関する科学的な研究を中心とする、主としてヨーロッパにおこったアーゴノミクスergonomics(エルゴノミーErgonomie)と、実験心理学および工学を主体としてアメリカに誕生したヒューマン・エンジニアリングhuman engineering(今日ではヒューマン・ファクターズhuman factorsとよばれている)の二つの流れがある。今日では両者は互いに融合し存続している。日本語の「人間工学」はhuman engineeringの和訳である。
人間の労働についての科学的関心は紀元前400年ころに始まるといわれ、古代ギリシアの医学者ヒポクラテスやガレノスらの記述のなかには、ある種の職業に従事する作業者の健康を危惧(きぐ)する内容がみられるという。また石器時代には人間が使用する道具による傷害に対して、これを防ぐ配慮をしたものもあるといわれる。
労働形態が大きく変革したのが産業革命である。蒸気機関の発明を契機として、動力を軸とする機械による生産体制がつくりだされ、それまで労働者ひとりひとりの手工的熟練を技術的な基準としていた生産は、工場生産にとってかわられた。産業革命は労働時間の延長をもたらし、労働の密度を高めるために、働く人間に大きな負担強いる結果となった。とくに紡績工場では女子労働者の労働条件が過酷を極めていた。
こうした背景のなかで、1857年にポーランドの科学者ヤストシェンボフスキWojciech Jastrzębowski(1799―1882)は、労働の科学をギリシア語に由来するergonomicsとして造語し、このことが人間工学のルーツとなった。ちなみにergonomicsは、ギリシア語の仕事を意味するergonと、原理ないし法則という意味のnomosに由来する。労働科学は肉体に関する科学である労働生理学と、精神に関する労働心理学とを基礎として成り立ち、欧米における人間工学の学問形成にも重要な役割を果たしている。
ヨーロッパにおける人間工学にかかわる組織は、1949年、人間とその人間が作業する場としての環境の関係を解剖学的・生理学的・心理学的な側面から研究することを目的に、イギリスで人間工学会The Ergonomics Societyが設立され、これを皮切りにヨーロッパ各国に学会が相次いで設立され、1961年には国際人間工学会International Ergonomics Associationが組織された。
一方、アメリカにおける人間工学は、第二次世界大戦において頻繁に起こった軍用機を中心とする航空機事故を防止するための研究が発端となっている。
その象徴的な研究として高度計の改良があげられる。当時、航空機の高度計は三針表示計であったため、操縦士がしばしば高度を見誤り、それが原因の航空機事故が引き起こされた。この人間の錯誤を検討するために心理学者や工学者が研究を開始し、その結果、高度計は二針表示計となり、航空機事故の減少に大きな役割を果たした。
アメリカの人間工学会The Human Factors Society of Americaが設立されたのは1957年で、その発端は1956年に開催されたロサンゼルスの医学工学協会とサン・ディエゴの人間工学協会の連合大会であった。現在では学会名称をHuman Factors and Ergonomics Societyとしている。
アメリカの人間工学研究の初期は、高度計研究に象徴されるように航空機の操縦室、コンソール、制御装置や表示装置、産業における作業効率などが研究対象とされたが、その後、システム工学におけるシステムのなかの人間の問題が研究対象となり、今日では都市社会システムにおけるヒューマン・ファクターなど広い領域における研究が行われている。
[内田 謙・斉藤 進]
日本で初めて「人間工学」ということばが公に使われたのは、1921年(大正10)に出版された『能率研究人間工学』(心理学者、田中寛一著)であろう。同年、倉敷(くらしき)紡績の社長大原孫三郎は、生理学者の暉峻義等(てるおかぎとう)を所長として倉敷労働科学研究所(現在の大原記念労働科学研究所の前身)を創設し、紡績工の疲労や作業能力などに関する一連の研究を行った。これが人間工学研究の草分けである。第二次世界大戦中はアメリカと同様に軍用機の航空機事故防止などの研究が行われていた。
本格的な人間工学的研究の始まりは、昭和20年代後半から30年代初頭にかけてである。
1955年(昭和30)初頭、3冊の人間工学の専門書が出版され、その後、防衛庁(現、防衛省)の航空医学実験隊を中心とする航空機事故防止のための研究、国鉄の三河島の鉄道事故(1962)に端を発する鉄道労働科学研究所(現在の鉄道総合技術研究所)における労働生理学的・人間工学的な鉄道事故防止対策に関する研究、日本の主要造船会社の技術陣を中心とする艦船人間工学研究会による人間工学資料集成の作成、自動車技術会のなかに設立された人間工学研究委員会の自動車設計における人間工学的検討、工業デザイン界における産業工芸試験所(後の製品科学研究所、現在の産業技術総合研究所)を中心とする消費者製品の使いやすさに関する研究、千葉大学室内計画研究室におけるベッドや椅子(いす)などの室内家具の人間工学的研究、カメラ業界における人間工学研究会の活動など、あらゆる分野で人間工学に関する適用研究が行われた。
1963年、日本人間工学会の前身である日本人間工学研究会が創設され、また関西では大阪大学の電子工学研究室や心理学研究室を中心とする関西人間工学研究会がほぼ同時期に誕生、それぞれ活動を続けていたが、1964年日本人間工学会が発足した。
日本人間工学会のおもな研究活動は、たとえば、人間工学専門家資格制度の確立、衣服に関連して被服設計における被服人間工学の導入、道具や機械あるいは消費者製品の設計に際して一つの基準になる人体寸法の測定法の標準化に関する研究、ヒューマン・エラーによる事故の原因解析と対策における人的事故の原因分析手順の作成、情報技術のユーザビリティ(使いやすさ)研究、国際標準化機構(ISO)の人間工学領域における標準規格審議やJIS(日本工業規格)原案作成活動など広範な領域に及ぶ。
[内田 謙・斉藤 進]
人間工学の適用範囲は広い。巨大システムでは、宇宙基地開発や原子力発電所の設計、電力や化学プラントの計装システムなどから、情報技術関連機器の人間工学的設計、日常手にする日常生活製品、さらには女性用の下着のデザインにまで及んでいる。
[内田 謙・斉藤 進]
航空機事故や原子力発電所の事故は複雑な要因の積み重なりの結果生じることが多く、その原因は単純に断定できないことが多いが、ヒューマン・エラーに起因するものも少なくないとされる。アメリカ、スリー・マイル島で起きた原子力発電所の事故(1979)原因は、人間の判断ミスと運転手順の不履行が重なったヒューマン・エラーによるものとされている。その後、現在に至るまで絶えることのない大型旅客機や鉄道事故など、ヒューマン・エラーに起因する事故は少なくない。
人間特性の弱点、とくに慣れ、つまり適応するということは感受性が低下することでもあり、慣れて注意力が低下することに起因するヒューマン・エラーもしばしば発生する。不注意はミスの原因ではなく、疲労等の結果としてだれにでも起こりうる人間の特性である。「ヒトはだれでも過ちを犯すもの(To err is human)」であり、このことは人間工学上の原則として意識することが必要である。
ヒューマン・エラーは、大脳の活動状態(意識レベル)に左右される内的要因と、作業者を取り巻くさまざまな作業環境などの外部要因が複合して事故を引き起こしている場合が多いとされる。たとえば、スリー・マイル島の原子力発電所の事故は、前述したようにオペレーターのヒューマン・エラー、あるいは作業ミスが直接的・間接的な原因になっているとされているが、計装パネルの機器配置が人間工学的にみてきわめてまずく、それが緊急事態の突発によってオペレーターのエラーを招いた、と解析されている。つまり、大脳の活動の意識レベルが、正常に働いているときの人間の信頼度は0.99~0.99999以上であるが、緊急事態が発生した場合には、注意作用は1点に集中し、判断能力は停止し、緊急防衛反応が働いて、その信頼度は0.9以下に低下するといわれる。こうした人間の弱点をバックアップする技術的な対策が、航空機の自動操縦装置や、鉄道の新幹線などに取り付けられたATC(automatic train control)装置などで、これらは緊急時に作動して、フェイルセーフ装置として働くのである。フェイルセーフは、ヒューマン・エラーや機器故障等の場合でも、つねに安全側に制御して災害にまで発展させない仕組みである。
原子力発電所に限らず、化学プラントで起こったヒューマン・エラーに起因する事故の多くは、計装や制御などの装置における人間と機械とのインターフェースの欠陥や不備から誘発されている。
[内田 謙・斉藤 進]
道具時代におけるインターフェースは、主として道具の柄とその握りとの適合の良否に置かれており、とくに作業用の大工道具や船大工の道具などのように人間の手加減と器用さを要求される場合には「馴染(なじ)む」という世界があって、道具の柄の握り具合を作業者ひとりひとりが自分の手で確かめながらつくっていた。
道具類が機械化され、電動化された時代には、把手やレバーなどはその操作のしやすさから握り具合がインターフェースの問題として研究の対象とされた。しかし今日のようにコンピュータ技術を導入した機器とのインターフェースの問題は、握りの世界から離れて、感覚の世界におけるタッチ(接触)に置き換えられてきている。たとえばパーソナルコンピュータ(パソコン)のキーボード操作は、タイプライターのようにたたく作業というよりタッチする作業に近い。キーボード操作におけるインターフェースの問題は種々あるが、正確でしかも迅速な操作のためには、作業者はつねにキーが確実に押されているかどうかを知る必要がある。
一般に手作業における作業面の高さは、上腕を下垂させて肘(ひじ)を曲げたときの肘頭の高さが目安とされている。キーボード操作でも、キーボードの高さがこれよりも高かったり低かったりすると手首や肩、腰に負担がかかりやすく、疲れる原因になる。またキーボードの傾斜角が適切でないと、前腕に負担がかかり疲労の原因になる。たとえば手首を45度に背屈してその状態を1分間ほど続けていると筋痛が生じ、2~3分で疲れてしまうほどの作業強度であるといわれている。
人間工学からみた消費者製品の使いやすさは、空間的要因、操作性要因、情報表示要因、安全性要因、環境要因、デザイン要因、および本来の道具機能要因といった点から考えられる。
空間的要因とは、手で使う製品であれば手の大きさや握り特性と製品の寸法および形態との関係である。操作性要因とは、手の運動特性や筋力と製品の操作特性との関係、情報表示要因とは、パーソナルコンピュータのように画面に情報が表示される場合の文字・数字などの大きさ、画面の輝度などと視覚特性の関係である。
安全性要因とは、その製品の使用に際して人間に傷害をもたらす要因が存在していないかという問題であり、環境要因は、製品の使用にあたって照明条件が適切か、騒音源とならないか、悪臭の発生源や人間に傷害をもたらす放射線の発生源とならないかなどの問題である。消費者製品であれば、製品によっては美的効果が問われることもある。デザイン要因はその時代の流行や価値観によって左右されるが、それに対応するための造形性などが含まれる。以上のような観点を踏まえたうえで、その製品が十分な道具機能を満足させているかが道具機能要因である。
以上のように使いやすさの因子は構成されているが、これらの因子を消費者の目からみると、その優先順位が製品によって異なる。
たとえば消費者の意識調査によれば、ポットでは安全性が優先され、デザイン性、環境要因、空間的要因の順位で使いやすさの評価がなされており、椅子ではデザイン性が優先されて、安全性、空間的要因、環境要因の順になっている。またオートバイでは操縦性要因が1位を占めるし、パーソナルコンピュータでは画面の視認性が1位を占める。
人間工学的にみて、使いやすさの構成因子をすべて満足させる製品が望ましい製品であることはいうまでもないが、大量生産による製品ではすべての因子を満足させることは困難な場合が多く、構成因子の優先順で人間工学的配慮がなされる場合が多い。
[内田 謙・斉藤 進]
手の働きが外化したのが道具であるといわれるように、皮膚の働きを外化したものが被服や靴など身体に着けるものであるといえる。
被服の機能には被覆性、保健性、適応性、装身性および耐久性などがある。これらの要因は、使いやすさの構成因子と似ており、人間工学的な対応の仕方も同様である。
生体―被服系における特性は、適合性、可動性、復原性、被覆性、吸汗性、接触性、操作性などがあげられる。これらの特性を満足させるために、生体側の属性と材料側の属性をどのように適応させて着やすさをよくするか、ということが課題であろう。たとえばインナーウェアinner wearでみると、適合性とは、生体の静止時における体表と被服の密着度であり、可動性とは、関節の動きによって体表に現れる屈曲じわや運動によって伸縮する皮膚に対応して被服の材質が伸縮するかどうかの問題である。また接触性は、被服が直接に皮膚に密着するため、肌にひやりとする感覚やざらざらした感触を与えないような材質のものが使われているかどうかなどの問題である。アウターウェアouterwearでみると、適合性とは、保温性をも加味した被服と体表との間の空間設計の許容量といえよう。また復原性とは、生体側の運動に伴ってできた被服のしわが元に戻るかどうかであり、被覆性とは、保温性や耐候性などと関連しており、地域差や季節、あるいは環境によって、肌をどの程度覆うかという問題である。
デザイン性については、被服においてはその時代の流行性やモラル、あるいは社会的な制約を受けることが顕著であり、しばしば人間工学的な配慮がないがしろにされる場合が多くみられる。そのため、人間工学的な配慮を必要とする被服は、作業用の事務服や作業着、防火服、さらには宇宙飛行士用の宇宙服のような特殊な被服が対象となる場合が多い。また最近では、スポーツウェアやウェットスーツなどのデザインに人間工学的な配慮がなされるようになってきている。
着やすさに関連して、靴の履きやすさも人間工学的な配慮が払われなければならない対象の一つであるが、その履きやすさの構成因子は、使いやすさの構成因子と同じようなアプローチで抽出することができると考えられる。
近年、とくに婦人靴において、欧米でそうであるように「外反母趾(がいはんぼし)」(足の親指が第2指の下に潜るように曲がり、親指の付け根の骨が突出する現象)の発生による痛みの訴えや、足の裏の痛みの訴えが多くなってきている。外反母趾発生の要因は靴のデザインにあると考えられ、それを少なくするようなデザインも、近年ようやく研究の対象になってきているが、その解決には足の生理、機能をも含んださまざまな角度からの研究が必要であろう。
[内田 謙・斉藤 進]
『浅居喜代治著『現代人間工学概論』(1980・オーム社)』▽『小原二郎他著『人体を測る』(1986・日本出版サービス)』▽『全集編集委員会編『工業デザイン全集』全8巻(1983~1990・日本出版サービス)』▽『正田亘著『人間工学』増補新版(1997・恒星社厚生閣)』▽『ユネスコ編、鈴木一重訳『人間工学』(1999・日本出版サービス)』▽『大島正光監修、大久保堯夫他編『人間工学の百科事典』(2005・丸善出版)』▽『日本生理人類学会編『カラダの百科事典』(2009・丸善出版)』▽『伊藤謙治・桑野園子・小松原明哲編『人間工学ハンドブック(普及版)』(2012・朝倉書店)』▽『日本規格協会編・刊『JISハンドブック 人間工学』各年版』▽『G. Salvendy ed.Handbook of Human Factors and Ergonomics, 3rd ed.(2006, John Wiley and Sons)』▽『W. Karwowski ed.International Encyclopedia of Ergonomics & Human Factors, 2nd ed.(2006, Taylor & Francis)』
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人間の身体的・心理的な面からみて,機械,機具などが,人間の特性や限界に適合する,すなわち整合性を持つように改善をはかるための科学をいう。人間工学の研究は,第1次大戦ころに産業界で始まり,日本でもこのころ松本亦太郎が初めてこの訳語を用いた。また第2次大戦中にアメリカにおいて,兵器の設計に関連して人間と機械との整合性の研究が急速に進んだが,最近ではオートメーション時代を背景にして,ますます重要視されるようになった。この分野はヨーロッパでは労働科学を基調として発展してアーゴノミクスergonomics(エルゴノミクスとも表記される)と呼ばれ,アメリカでは機械文明社会を背景にして,マン・マシンシステムにおける人的要因に重点を置き,human factors engineeringと呼んでいる。またhuman engineeringという言葉も古くから使われている。人間工学の対象は,衣服,家具,道具から始まって,機械器具,交通機関,建築物,都市,さらには環境や作業システムまでの広い範囲を含んでいる。人間工学の目標を図に示す。まず機械器具等(以下,機器と呼ぶ)は使い勝手がよく,また周囲には快適環境が用意されていなければならない。さらに,機械による人間疎外を防ぐために,できるだけ人間の主体性,創造性が生かされるような,やりがいのある機器であることが望ましい。
人間工学の内容は次のように分類することができる。
(1)人間の形態,姿勢,筋活動の分析,(2)人間の感覚入力,情報処理,動作などの特性の分析,(3)作業負担,疲労の分析,(4)機器,環境,作業システムの人間工学的設計,(5)人間-機械システムの分析・設計,(6)人間の信頼性の分析とシステムの安全性設計。
機器設計のためには,まず人体の寸法,作業姿勢,手足の動作範囲,空間的な操作力の分布などが基礎データとなる。次に,機器の表示器との関連で,人間の感覚入力(特に視覚,聴覚)特性が,また操作具との関連で,人間の動作特性が問題になる。作業負担や疲労は,機器と人間との整合性の良否の結果として生じたもので,その評価結果は機器の人間工学的設計の基礎データとして役立つ。計測方法としては,筋作業においてはエネルギー代謝率,神経的・心的作業においては,疲労測定用のフリッカー値,あるいは反応時間や誤り率などのパフォーマンスがある。フリッカー値は光点のちらつきの融合周波数を意味し,視覚機能の周波数特性の変化を介して,大脳皮質の活動レベルを推定するものである。フリッカー値は覚醒レベル(意識レベル)や緊張度の影響も受けるが,精神疲労と日周性変動を評価するための最も有力な手段である。機器の人間工学的設計に際して考えるべき要素には,(1)構造・配置的要素,(2)力および調整的要素,(3)時間・速度的要素,(4)感覚表示的要素がある(大島正光による)。機器の人間工学的評価は,主として,主観評価,反応時間による評価,誤り率による評価などによって行われる。マン・マシンシステムは,機械の出力,人間の感覚入力,人間の情報処理,人間の出力,機械の入力という一連のループに関する問題を取り扱い,人間・機械システム論は人間工学とほとんど同義語的に使われる場合もある。また人間の信頼性とシステムの安全性とは,ヒューマンエラー(錯誤)とシステムの事故の関係を検討するもので,最近の大規模システムの安全性に関連して特に重要である。
執筆者:渡辺 瞭
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…ここでは,もっぱら,人の身体・生理機能と道具・機械との適合性が検討された。ただし,この頃は,マン・マシンインターフェースと呼ばれ,人間工学の一分野として研究されてきた。 これをHI研究の第1の波とすると,第2の波が,コンピューターという新たな知的対話マシンの急速な普及に伴って,1960年代初頭におとずれた。…
※「人間工学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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