人間の手の延長として用いられる道具のうち、工作に使用されるものの総称。狭義には機械加工に使われる刃物をいうこともある。
工具には、(1)工作機械で用いる刃物・砥石(といし)などの切削工具・研削工具(狭義の工具)、(2)ものを加工するときに補助的に使用する取付具・ジグ・保持具、(3)組立てや手作業に使う作業用の器具、(4)ものの寸法・角度などを測定するための測定工具などがある。
[中山秀太郎]
旋盤、ボール盤、フライス盤、歯切(はぎり)盤などの切削加工用工作機械で用いられる工具には、バイト、ドリル、フライス、リーマ、歯切工具、ねじ加工工具、ダイスなど多くの種類があり、使用目的に応じて形状は多様である。しかし、切削の機構は同じで、楔(くさび)状の刃先が素材に切り込み、表面を削り取ってゆく。刃先の前面をすくい面、すくい面と切削方向に垂直な面との角度をすくい角(α)という。刃先の下の面を逃げ面、逃げ面と仕上げ面のなす角度を逃げ角(γ)という。工具の刃先の角度を刃物角(β)とよぶ。刃先の形状は、α、β、γによって決められる。金属切削の場合は、刃物角が小さいと刃先が折れる心配があるので、βを90度近くにする。すくい角は通常5~30度、逃げ角は刃先の逃げ面と素材とが接触しないように4~10度程度とする。
刃先の材料は強く硬く、折れたり欠けたりしない必要がある。炭素工具鋼は硬くて粘りもあり加工も容易なので、20世紀初頭まで刃先材料として使用されてきた。切削速度を速めると刃先の温度が上がり軟化して切れ味が落ちるが、炭素鋼では300℃までしか使用できないので、現在ではあまり使われない。かわって発明されたのがタングステン14~20%、クロム4%、バナジウム1~2%を含む合金鋼である。この合金鋼の刃先は600℃の高温でも切れ味が落ちず、炭素鋼の刃先の5~6倍の切削速度に耐えるので、高速度鋼とよばれ、広く使用されるようになった。high speed steelを略してハイスともいわれている。今日では、複雑形状のドリルなどに使われている。1926年ころから炭化タングステンを主体とする超硬合金の研究が進み、1000℃程度の高温でも硬さが落ちず、したがって炭素工具鋼の20倍、高速度鋼の4倍の切削速度で使用できる超硬工具が開発された。これによりマンガン鋼やチルド鋳鉄のような、従来困難であった切削が可能になり、ハイス同様、広く使われている。この他、高速加工用に、超硬合金やハイスの基材に硬いアルミナや炭化チタン、窒化チタンなどの薄膜をコーティングしたもの(コーテッド工具とよばれる)や、セラミックスが使われている。また、焼き入れした硬い材料なども加工可能なダイヤモンドに近い硬度をもったCBN(立方晶窒化ホウ素)も多く使われている。
研削盤で用いられる研削加工用工具には、アルミナ系や炭化ケイ素系、ダイヤモンド、CBNなどの硬い粒子(砥粒)を結合材で固めて円板状やカップ状にした砥石が使用されている。
[中山秀太郎・清水伸二]
木材加工に使われる工具で、鋸(のこぎり)、鉋(かんな)、のみ、錐(きり)、金槌(かなづち)、砥石などがある。製作技術によって切れ味・耐久性などの品質に差がつくので、高級な木工工具には製作者の銘を入れるのが普通である。
[中山秀太郎]
鍛造や鋳造された機械部品を手で仕上げるときに使用する。やすり、たがね、きさげ、万力などがある。これらの工具で作業するときに使われるけがき針、トースカン、直角定規などや、スパナ、レンチ、ペンチ、ねじ回し、ハンマーなども手仕上げ用工具である。
[中山秀太郎]
長さや角度を測定するのに使用される。ノギス、キャリパス、マイクロメーター、金属製直尺、直角定規、ブロックゲージ、ハイトゲージ、隙間(すきま)ゲージなど。
[中山秀太郎]
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… 機械が発達すると,機械作業の補助をなす道具も発達する。〈工具〉と呼ばれているものがそれで,工作機械用の刃物(切削工具)や砥石(といし)(研削工具)が代表的なものであるが,機械以前の諸道具が鍛造や仕上げに用いられているほか,測定器具や治具も工具として扱われている。この意味での道具は今後機械が限りなく発達しても必要でかつ出現し続けるであろうが,他方で機械が日常化した結果,道具化しつつあるものも少なくなく,電動木工用具や家庭電化器具は(家財)道具となっているし,計算機も現在道具化しつつあり,20世紀の後半の現在,道具と機械の区別は厳密でなくなりつつある。…
※「工具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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