使節遵行 (しせつじゅんぎょう)
南北朝・室町時代に幕府の命をうけた守護や守護代が守護使や遵行使を現地に派遣し,幕命を執行すること。勝訴人への所領の引渡しや違乱押妨の排除などが多い。この行為の完了を〈打渡し〉という。幕府の全国統治にとって裁許事項の徹底は不可欠のことであった。大犯三箇条に加えてこの使節遵行の権限が苅田狼藉の検断とともに守護に与えられたのは1346年(正平1・貞和2)であるが,実際には幕府開創期から守護の担うものだったと思われる。なぜならば1338年(延元3・暦応1)足利尊氏は諸国守護に対し,引付奉書(幕命)に従わず,請文(うけぶみ)も出さずに放置している守護の違背行為を禁じているし,44年(興国5・康永3)にも幕府は守護人以下による使節遵行の遅延を難じ,所帯収公の態度で臨んでいたからである。守護の使節遵行権は,たとえば《庭訓往来》に〈御下文,御教書厳重の間,入部の使節異儀なくかの所に莅(のぞ)みて遵行せしめ候ぬ〉とあるように,国内所領への守護勢力の入部を根拠づけた。これは守護の領国支配の展開にとって重要な契機となったのである。守護使は幕府裁許の執行のためだけでなく,幕府の課した段銭・棟別(むなべち)銭などの徴収に際しても国内所領へ入部し,譴責を加えた。将軍近習,奉公衆などの直勤御家人層が,京済(きようぜい)(京都での直接納入)を求めそれを実現したのも,守護使節の入部を阻止するためであった。使節の入部を在地の側から見れば,武力による譴責だけでなく,滞在費や礼銭などの負担も多く,避けたい事態だったのである。15世紀に入ると守護不入権確保の動向が強くなり,幕府も守護勢力の増長を押さえ,みずからの一方の立脚基盤であった御家人層とのバランスを考慮し,守護不入を承認し積極的に実施していった。使節遵行の権限を守護に与えたのは,幕政の全国的執行に必要であったためであるが,それは一方では守護の自立化,領国支配者への指向に有力な武器ともなったのである。
執筆者:田沼 睦
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使節遵行
しせつじゅんぎょう
鎌倉後期~室町時代,検断・所務にかかわる幕府裁定を使節を派遣して遵行すなわち強制執行する手続。検断関係の使節遵行は13世紀後半からみえ,係争地周辺の有力御家人2人からなる両使または守護の被官が遵行使となった。室町幕府も両使と守護使による遵行手続を継承し,1346年(貞和2・正平元)に使節遵行を大犯(だいぼん)三カ条に加えて守護の職権とした。軍事・検断を基本とする守護の職権が拡大し,所務沙汰にも関与するようになる。両使遵行は1350年代に減少し,守護によるものが一般化し,守護法廷の機能が強化された。守護使の任務は幕府課役や守護独自の課役の徴収にも拡大し,これに対応して奉公衆や有力荘園領主に守護使不入の特権が与えられた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
使節遵行【しせつじゅんぎょう】
室町時代,幕府の命令を受けた守護が,現地に使節(遵行使)を派遣してその命令を執行すること。主に土地争論での勝訴人への所領の引き渡し,違乱押妨の排除などで,この使節遵行権は大犯(だいぼん)三箇条・苅田(かりた)狼藉の検断権などとともに,守護勢力の国内所領への入部を根拠づけ,守護の権限を拡大させた。しかし15世紀ごろから幕府は守護勢力増長を抑えるため,在地からの守護不入権要求を認めていった。
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世界大百科事典(旧版)内の使節遵行の言及
【大犯三箇条】より
…この職権規定は将軍源頼朝の時代に設けられたが,その後,1232年(貞永1)制定の《御成敗式目》では[夜討],強盗,[山賊],海賊が加えられ,放火も盗賊に準ずる犯罪として同じ扱いになったようである。南北朝時代に入ると室町幕府は[苅田狼藉](かりたろうぜき)(他人の農作物を,権利ありと称して幕府の判定をまたずに刈り取る行為)の検断と,[使節遵行](しせつじゆんぎよう)(所領相論の当事者に対して幕府の判定を執行する職権行為)を大犯三箇条に付加するなど,守護職権の拡大の傾向が見られる。一方,諸国の御家人が交代で上京して勤務する京都大番役の制度が解体したことによって,守護の大番催促は有名無実となった。…
【山城国】より
…この室町幕府の開幕初期には山城国に守護を設置しなかった。室町時代の守護は幕府裁許の結果を現地において実行する[使節遵行](しせつじゆんぎよう)を重要な職務としているが,守護の設置がされなかった山城国では,在京の御家人2人がこの任にあたった。山城国を直接支配下に置こうとする幕府の意図にもとづくものである。…
※「使節遵行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」