鎌倉・室町幕府において,守護の職権事項と定められた,謀叛人,殺害人の検断と京都大番役の催促の3項をいう(この場合の守護検断権の本質が,守護が公家領・本所領にも立ち入って犯人を逮捕できる点にあるか,犯人の処断にあるかは説が分かれている)。この職権規定は将軍源頼朝の時代に設けられたが,その後,1232年(貞永1)制定の《御成敗式目》では夜討,強盗,山賊,海賊が加えられ,放火も盗賊に準ずる犯罪として同じ扱いになったようである。南北朝時代に入ると室町幕府は苅田狼藉(かりたろうぜき)(他人の農作物を,権利ありと称して幕府の判定をまたずに刈り取る行為)の検断と,使節遵行(しせつじゆんぎよう)(所領相論の当事者に対して幕府の判定を執行する職権行為)を大犯三箇条に付加するなど,守護職権の拡大の傾向が見られる。一方,諸国の御家人が交代で上京して勤務する京都大番役の制度が解体したことによって,守護の大番催促は有名無実となった。その後,守護検断の対象となる犯罪にも整理変更が加えられたらしく,15世紀前半の応永・永享ごろには放火,殺人,盗みの三犯を大犯三箇条とよぶようになり,これが定法として17世紀に入るまで維持された。こうして,放火,殺人,盗みの三犯は守護の検断事項として定着すると同時に,重大犯罪の代表とみなされて,この三犯の犯人は死罪に処するのが定法となった。1603-12年(慶長8-17)ころ,京都所司代板倉勝重の制定とされる《板倉氏新式目》にも,大犯三箇条の罪科は〈法度の如く殺害せしむべき事〉と見えている。
執筆者:佐藤 進一
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鎌倉時代の守護の職務権限。謀反、殺害(せつがい)の二大重罪犯人の追捕(ついぶ)(逮捕)と、管国内御家人(ごけにん)を率いて京都大番(おおばん)役を勤める大番催促の三つをいう。前者は管国内警察権、後者は管国内軍事指揮権を意味する。御成敗式目(ごせいばいしきもく)では前者に夜討・強盗・山賊・海賊の追捕権を付加する。大犯三箇条は源頼朝(よりとも)時代に定められたというが、実際には地域や守護の出自によって差があり、守護不入権をもつ本所(ほんじょ)や地頭(じとう)との関係など複雑である。大番も有力御家人の場合は守護の指揮下に入らず直接勤仕(ごんじ)している。なお守護の権限は拡大される傾向にあり、室町幕府では下地遵行(したじじゅんぎょう)(判決の強制執行)、闕所(けっしょ)処分などが付加され、守護の大名化の契機をなした。16世紀には放火・殺人・盗犯(日葡(にっぽ)辞書)の意に転化している。
[羽下徳彦]
鎌倉時代の守護の基本的な職権。大番催促,謀反人・殺害人の追捕をいう。この語は鎌倉後期から使われるようになったが,実際には将軍源頼朝の末期から頼家の初期に定まったと考えられている。1199年(正治元)小山朝政(ともまさ)を播磨国守護に任じた「吾妻鏡」の記事は,大番勤仕と謀反人・殺害人の沙汰を命じ,国務への介入を戒めた。「御成敗式目」は,守護の職掌に大番催促・謀反・殺害人事を定め,夜討・強盗・山賊・海賊を加えた。その後,放火人・刈田狼藉が加わったが,基本的な内容に変化はなかった。室町幕府は「建武式目」で守護の大犯三箇条遵守をうたったが,大番役は無実化,守護が行う検断の重要項目を示す用語となっていた。15世紀前半には,放火・殺人・盗みをさしたが,戦国末期までこの3犯は死刑に処する重大犯罪の代表とされた。
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…この刑罰の賠償制は,盗みを単なる物の移動としてとらえ,その物の返済,もしくはその不当な占有期間に見合う弁償を加えれば,罪を解消し原状を回復しうるという考え方にたつもので,世界諸民族の盗犯に対する法の標準的法理であったといえる。前者の社会的な窃盗重罪観は,鎌倉幕府の〈大犯三箇条(だいぼんさんかじよう)〉に対して,中世後期,殺人,放火,盗みを内容とする新しい〈大犯三箇条〉の語を生みだしたことに象徴されるように,一貫して現実の社会に機能していた。盗みに対しては見つけしだい打ち殺すのが,この世界でのルールであり,犯人の妻子まで縁坐として処刑されることもまれではなかった。…
…平安後期以降は反と叛の区別は意識されず,君主,主人に〈そむく〉行為はおしなべて謀叛と称された。中世でも最大の犯罪とみなされたことは当然で,鎌倉幕府法ではいわゆる大犯(だいぼん)三箇条の筆頭として謀叛,殺害(夜討,強盗,山賊,海賊もこれに準ずる),大番催促と列挙される。大犯三箇条の犯罪の追捕権は守護にあるから,守護使不入の特権を有する本所領(荘園)にも,謀叛人追捕のためには守護は入部することができた。…
※「大犯三箇条」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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