価格戦略(読み)かかくせんりゃく(その他表記)price strategy

改訂新版 世界大百科事典 「価格戦略」の意味・わかりやすい解説

価格戦略 (かかくせんりゃく)
price strategy

企業がそのマーケティング目標を達成するために,諸環境要因の変化に対応しながら,長期的視野に立って行う商品ないしはサービス価格に関する計画とその遂行をいう。生鮮食品のような差別化されない商品に関して多数の売手と多数の買手が存在する市場においては,価格は,需給関係によって与えられるものであり,個々の企業がコントロールしうる対象ではない。しかし現在では,ほとんどの製造品にみられるごとく,差別化された商標品branded goodsの場合は,企業は,市場動向や諸費用,競争相手の動きなど,種々の要因を考慮しつつ,それぞれ独自の戦略的な価格政策を実施するのが通例であり,製品戦略,販売促進戦略,販売チャネル戦略などとともに,企業のマーケティング戦略の主要な柱の一つとなっている。価格戦略は,個々の商品について新規に価格を設定する際の〈価格設定政策〉と,設定された価格を販売チャネルの各段階や変化する市場の状況などにいかに対応させていくかといった〈価格管理政策〉に大別される。

 基本的な価格設定政策(〈価格形成〉の項参照)としては,(1)原価を基準にした政策,(2)消費者行動に対応した政策,(3)競争相手を重視した政策,があげられる。(1)には,(a)商品原価に一定のマークアップmark-up(通常は慣習的利潤)を加えて売価とする〈原価加算方式cost-plus pricing〉,(b)諸条件を考慮しながらマークアップを適宜変化させて売価を決める〈変動マークアップ方式〉がある。(2)には,(a)化粧品のように,価格が高いほど高級で使用者のステータスも高くみられると考える消費者の心理を利用した〈名声価格制prestige pricing〉,(b)かつてキャラメルセッケンにみられたように,ある一定の慣習化した価格が存在しており,値上げすると極端に売上げが落ち,値下げしてもあまり売上げが伸びず,したがって長期に慣習化した価格を維持する〈慣習価格制customary pricing〉,(c)98円とか998円といった端数の価格をつけることで割安の印象を与えようとする〈端数価格制odd pricing〉,(d)売れ筋の値ごろに価格をしぼることで消費者の選択を容易にするとともに,在庫管理の簡素化を図る〈プライス・ライン制price lining policy〉などがある。(3)には,競争相手の企業が設定した価格をそのまま模倣して(状況次第では一定の差をつけて)値決めをする〈模倣価格政策price imitation policy〉または〈追随価格政策price followship policy〉などがある。

 これらの基本的な価格政策のほかに,特定の状況に対応するための個別的な政策として,次のような諸政策がある。すなわち,まったく新しい製品の価格政策として,市場導入期に高価格をつけておき,しだいに価格を引き下げていく〈上層吸収価格政策(上澄吸収価格政策ともいう)skim-the-cream pricing〉と,逆に,最初から急速に市場を開拓するために安い価格をつける〈浸透価格政策penetration pricing〉,販売対象市場の違いによって価格差をもって対応していくための〈差別価格政策discriminatory price policy〉,ないしは〈割引政策discount policy〉,値くずれの防止や価格安定のための〈再販売価格維持政策resale price maintenance policy〉などである。

 価格戦略は,以上のようなさまざまな政策をベースとするとともに,他のマーケティング諸活動との関連に留意しつつ,長期的,総合的な視野に立って樹立され,実施される。
マーケティング
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

知恵蔵 「価格戦略」の解説

価格戦略

マーケティング・ミックスの4つの要素のうちの1つが価格であり、その戦略としては、価格の設定と維持・変更の2つの側面がある。まず新製品については、(1)高価格でも購入する消費者にターゲットを定める上澄み吸収価格設定、(2)市場シェアを一気に高めるために低価格を付ける市場浸透価格設定、が考えられる。またその他の一般的な製品の場合は、原価、需要、消費者心理、競争、製品ラインアップなどを考慮して価格が設定される。他方、価格の維持・変更も重要な価格戦略の側面。企業は一度設定した価格はなるべく維持したいと考えるが、製品のコモディティ化(日用品化)、需要の落ち込み、競争の激化等の理由で値下げを余儀なくされることもある。また反対に、コストの上昇などにより値上げせざるを得ない場合もある。しかしいずれの場合にも、競合他社や消費者の反応を見極め、他のマーケティング・ミックス要素との関連を考えて価格変更を行う必要がある。

(高橋郁夫 慶應義塾大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「価格戦略」の意味・わかりやすい解説

価格戦略
かかくせんりゃく
pricing strategy

競争戦略ならびにマーケティング戦略の重要な構成要素の一つ。競争優位を獲得するために,製品やサービスの価格決定の指針となる戦略。競争相手よりも低価格を設定する戦略,および品質やブランドを訴求するため競争相手よりも高価格を設定する戦略などがある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

ブランド用語集 「価格戦略」の解説

価格戦略

価格戦略とはマーケティングの4Pの主要要素である価格(Price)に関する戦略のことをいう。

出典 (株)トライベック・ブランド戦略研究所ブランド用語集について 情報

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