俘虜記(読み)フリョキ

改訂新版 世界大百科事典 「俘虜記」の意味・わかりやすい解説

俘虜記 (ふりょき)

大岡昇平長編小説。1948年《文学界》に発表された短編《俘虜記》(合本《俘虜記》収録時に〈捉まるまで〉と改題)をはじめとして,51年まで各誌分載。52年創元社より合本《俘虜記》として刊行。作者は,45年1月フィリピンのミンドロ島でアメリカ軍の攻撃を受け,病兵としてひとり山中に取り残され,意識を失って捕虜となり,約1年間収容所生活を送った。この合本《俘虜記》はその体験の記録である。兵士および俘虜としての自己の行動と意識について厳密な考察が加えられると同時に,俘虜たちの生態と人間性とが活写され,収容所の生活が占領下の日本の社会を暗示するように描き出されている。死に直面した作者がしだいに健康を回復していく過程も魅力的である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「俘虜記」の意味・わかりやすい解説

俘虜記
ふりょき

大岡昇平の小説。作者がミンドロ島の戦場でアメリカ軍の捕虜となった状況を描いた短編『俘虜記』(『文学界』1948年2月号。のち『捉(つか)まるまで』と改題)がまず発表され、続いて捕虜生活中の体験を描いた連作が、『俘虜記』(1948・創元社)、『続俘虜記』(1949・同)、『新しき俘虜と古き俘虜』(1951・同)として刊行され、『合本 俘虜記』(1952・同)にまとめられた。『捉まるまで』のテーマは、眼前に現れた若いアメリカ兵をなぜ撃たなかったか、ということであるが、続く連作では、自由を奪われ生産から切り離された人間の生態を「檻禁(かんきん)状況」の視点からとらえ、ドキュメントをそのまま実験小説に転じた作品である。

亀井秀雄

『『俘虜記』(講談社文庫・新潮文庫)』

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