歌舞伎(かぶき)舞踊。清元(きよもと)。1818年(文化15)3月、江戸・都座で3世尾上(おのえ)菊五郎が踊った七変化(へんげ)舞踊『深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)』の一節で、作詞篠田(しのだ)金治、作曲清沢万吉(初世清元斎兵衛(さいべえ))、振付け藤間新三郎・藤間大助(だいすけ)(2世勘十郎)。浄瑠璃(じょうるり)『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』の二段目「小袖物狂(こそでものぐるい)」の場、安倍(あべの)保名が恋人榊(さかき)の前(まえ)の死を嘆くあまり狂気して、形見の小袖を抱いて春の野をさまようくだりを舞踊化したもの。清元の名曲として伝わり、振は幕末に絶えていたのを、明治期に9世市川団十郎が復活、大正期には6世菊五郎が幻想的な舞台装置で心理描写に重きを置いた演出を始めてから、大いに流行するようになった。別に奴(やっこ)が絡む古風な演出もある。
[松井俊諭]
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…異類婚姻譚として著名な信田妻(しのだづま)の伝承は17世紀後半からしばしば人形浄瑠璃や歌舞伎に取り上げられていたが,本作はそれらを集大成した作品。秘伝書《金烏玉兎集(きんうぎよくとしゆう)》をめぐる安倍保名(やすな)と蘆屋道満との対立を主筋とし,保名に助けられた白狐が許婚葛の葉姫の姿を借りて契りを交わし一子を儲けるという安倍晴明の出生譚を絡めたもの。竹本大和掾の風を伝える四段目口の〈葛の葉子別れの段〉がもっぱら上演されてきた。…
…現行作品では清元《鞍馬獅子》,常磐津《お光狂乱》,長唄《賤機帯(しずはたおび)》,清元《隅田川(すみだがわ)》,常磐津《お夏狂乱》などがある。男性の狂乱作品には,清元《保名》《幻椀久》,長唄《二人椀久》などがある。これも女性狂乱と同じく愛人を失ったところに狂乱の原因があるが,男性狂乱の作品は,かつてはそのほとんどが作為的な偽狂乱であった。…
…生来の美音家であるのに加えて時代の好みに乗り,庶民に歓迎された。初演した語り物に《保名(やすな)》《累(かさね)》《山姥(やまんば)》など。(2)2世(1802‐55∥享和2‐安政2) 初世の子の岡村藤兵衛。…
※「保名」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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