保名(読み)やすな

精選版 日本国語大辞典 「保名」の意味・読み・例文・類語

やすな【保名】

歌舞伎所作事。清元。篠田金治作詞。初世清元斎兵衛清沢万吉作曲。二世藤間勘十郎(藤間大助振付。文政元年(一八一八江戸都座初演。三世尾上菊五郎の七変化舞踊深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)」春の部の一つ。浄瑠璃蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」の二段目「小袖物狂」をとり入れたもの。恋人の榊(さかき)の前に死なれた安倍保名が、形見小袖を抱いて狂いさまよう。清元の代表作。保名狂乱

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デジタル大辞泉 「保名」の意味・読み・例文・類語

やすな【保名】

歌舞伎舞踊。清元。篠田金治作詞、清沢万吉作曲。七変化舞踊深山桜及兼樹振みやまのはなとどかぬえだぶり」の一。文政元年(1818)江戸都座初演。浄瑠璃「蘆屋道満大内鑑あしやどうまんおおうちかがみ」の二段目「小袖物狂」の場、安倍保名が亡き恋人の形見の小袖を抱いて狂い歩くくだりを舞踊化したもの。保名狂乱。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「保名」の意味・わかりやすい解説

保名
やすな

歌舞伎(かぶき)舞踊。清元(きよもと)。1818年(文化15)3月、江戸・都座で3世尾上(おのえ)菊五郎が踊った七変化(へんげ)舞踊『深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)』の一節で、作詞篠田(しのだ)金治、作曲清沢万吉(初世清元斎兵衛(さいべえ))、振付け藤間新三郎・藤間大助(だいすけ)(2世勘十郎)。浄瑠璃(じょうるり)『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』の二段目「小袖物狂(こそでものぐるい)」の場、安倍(あべの)保名が恋人榊(さかき)の前(まえ)の死を嘆くあまり狂気して、形見の小袖を抱いて春の野をさまようくだりを舞踊化したもの。清元の名曲として伝わり、振は幕末に絶えていたのを、明治期に9世市川団十郎が復活、大正期には6世菊五郎が幻想的な舞台装置で心理描写に重きを置いた演出を始めてから、大いに流行するようになった。別に奴(やっこ)が絡む古風な演出もある。

[松井俊諭]

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改訂新版 世界大百科事典 「保名」の意味・わかりやすい解説

保名 (やすな)

歌舞伎舞踊。清元。1818年(文政1)3月江戸都座で3世尾上菊五郎初演。四季七変化《深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)》春の部の一つ。作詞篠田(しのだ)金治,作曲初世清元斎兵衛,振付藤間大助(2世藤間勘十郎)。初演以降絶えていたのを9世市川団十郎が復活。《蘆屋道満大内鑑》の安倍保名が恋人を失って狂乱し,形見の小袖を抱き野辺を狂うので《小袖物狂》ともいう。現行一般の演出は大正期に6世尾上菊五郎が,田中良の装置で新舞踊化したもの。
狂乱物
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「保名」の意味・わかりやすい解説

保名
やすな

歌舞伎舞踊曲。清元。本名題『深山桜及兼樹振 (みやまのはなとどかぬえだぶり) 』。文化 15 (1818) 年3月江戸都座『曾我梅菊念力弦 (そがきょうだいおもいのはりゆみ) 』の大切 (おおぎり) 所作事。四季七変化の一つとして3世尾上菊五郎が初演。作者篠田金治,作曲清沢万吉 (1世清元斎兵衛) ,振付藤間新三郎,大助。享保 19 (1734) 年初演の浄瑠璃『芦屋道満大内鑑』の2段目道行「小袖物狂いの段」を原拠とし,安倍保名がその恋人榊の前の死により,悲しみのあまり形見の小袖をいだいて野辺をさまよう場,長袴の男物狂いに珍しい郭の振りが人気を呼んだ。現在の演出は6世尾上菊五郎による。

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百科事典マイペディア 「保名」の意味・わかりやすい解説

保名【やすな】

清元節の曲名。四季七変化《深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)》春の一。篠田金治作詞,清沢万吉(初世清元斎兵衛の前名)作曲。1818年初演。義太夫節《芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)》に基づいた変化舞踊の名曲。
→関連項目狂乱物清元斎兵衛

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「保名」の解説

保名
(通称)
やすな

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
深山桜及兼樹振 など
初演
文政1.3(江戸・都座)

保名
やすな

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
宝永7.10(江戸・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の保名の言及

【蘆屋道満大内鑑】より

…異類婚姻譚として著名な信田妻(しのだづま)の伝承は17世紀後半からしばしば人形浄瑠璃や歌舞伎に取り上げられていたが,本作はそれらを集大成した作品。秘伝書《金烏玉兎集(きんうぎよくとしゆう)》をめぐる安倍保名(やすな)と蘆屋道満との対立を主筋とし,保名に助けられた白狐が許婚葛の葉姫の姿を借りて契りを交わし一子を儲けるという安倍晴明の出生譚を絡めたもの。竹本大和掾の風を伝える四段目口の〈葛の葉子別れの段〉がもっぱら上演されてきた。…

【狂乱物】より

…現行作品では清元《鞍馬獅子》,常磐津《お光狂乱》,長唄《賤機帯(しずはたおび)》,清元《隅田川(すみだがわ)》,常磐津《お夏狂乱》などがある。男性の狂乱作品には,清元《保名》《幻椀久》,長唄《二人椀久》などがある。これも女性狂乱と同じく愛人を失ったところに狂乱の原因があるが,男性狂乱の作品は,かつてはそのほとんどが作為的な偽狂乱であった。…

【清元延寿太夫】より

…生来の美音家であるのに加えて時代の好みに乗り,庶民に歓迎された。初演した語り物に《保名(やすな)》《(かさね)》《山姥(やまんば)》など。(2)2世(1802‐55∥享和2‐安政2) 初世の子の岡村藤兵衛。…

※「保名」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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