歌舞伎の中で演じられる舞踊および舞踊劇。また日本舞踊を代表する舞踊として同義語にも用いられる。
歌舞伎舞踊は,中世末期の風流(ふりゆう)踊という民俗舞踊を母体として発したもので,出雲のお国の踊った歌舞伎踊にはじまる。お国に追随した遊女歌舞伎も,女性芸能いっさいの禁止で出現した若衆歌舞伎も,その中心はレビュー式の〈総“踊”-大踊〉であった。若衆歌舞伎から,その禁止後に登場する野郎歌舞伎になるころ,“舞”の系統が注入され,さらに女方の発生により若衆から女方に舞踊の中心が移り,元禄期(1688-1704)に,劇的な“振り”の物真似要素を加えた〈所作事〉が確立する。次の享保から宝暦期(1716-64)に女方舞踊全盛期を迎え,石橋(しやつきよう)物,道成寺物の名作が生まれる。宝暦以後,豊後系浄瑠璃〈常磐津,富本〉などの発達とともに天明期(1781-89)に〈狂言浄瑠璃〉といわれる舞踊劇が完成する。やがて文化・文政期(1804-30)から幕末にかけては〈変化(へんげ)物〉流行の時代。変化物は,バラエティーのある小品舞踊を組み合わせたもので,三変化から十二変化に及ぶ作品を1人で踊りわけるものである。この一部が単独で残り,現在の日本舞踊作品の中心になっている。明治になると演劇改良運動などによる高尚化の波にのって,能狂言に取材した〈松羽目物〉が登場する。この後,新舞踊運動が起こり,歌舞伎をはなれて,日本舞踊家が独立輩出する。
歌舞伎舞踊を大別すると,劇舞踊と純舞踊に分けられる。前者はテーマを持つ演劇性の強い舞踊で,後者はテーマのない風俗描写を主眼としたものである。さらに詳細にみるとさまざまの分類法がある。様式上,題材上からは,祝儀物,三番叟物,道成寺物,石橋物,浅間物,丹前物,草摺引物,蜘蛛舞物,道行物,松風物,曾我物,山姥物,椀久物,拍子舞物,男舞物,変化物,松羽目物,狂乱物,風俗物,祭礼物,最近は素踊物などがある。また興行形態から,儀式舞踊,顔見世物,大切物と区別される。伴奏音楽を基準にすると,長唄物(歌い物系統)と浄瑠璃物(語り物系統)に二大別されるが,地方の〈掛合〉という形式もみられる。
歌舞伎舞踊の1曲の構造は,基本的には一定の原則がある。舞楽・能の序破急の理論に基づき,1曲の構成は次の表の形式が原則となる。文章構造にも通じるものがある。
〈オキ〉は舞台を空にして唄を聞かせる部分。〈出〉は人物の登場・紹介の部分。花道で道行となることもある。〈クドキ〉は女が男への恋情を振りに表現する眼目の部分。男の場合は,〈語り〉で戦の物語を踊る。〈踊り地〉は太鼓地ともいい賑やかな鳴物入りの手踊,総踊となる。
〈チラシ〉は終局の場面。段切れで舞台上の見得で終わることもあり,花道引込みの場合もある。
執筆者:西形 節子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…近世以前には腰鼓や編木(びんざさら)を奏しつつ躍る田楽躍,鉦(かね)や念仏でおどる踊念仏,小歌を誦する小歌踊,飾りや歌にくふうをこらした風流(ふりゆう)踊などがあり,用いる楽器により太鼓踊,羯鼓(かつこ)踊,銭太鼓踊,採物(とりもの)や被(かぶ)り物の違いにより棒踊,傘踊,笠踊,灯籠踊,綾踊,コキリコ踊,目的の違いにより盆踊,七夕踊,田植踊,雨乞踊,形態によって鹿(しし)踊,七福神踊などさまざまな名称で呼ばれる。なお近世の歌舞伎舞踊は舞と踊りの要素を巧みに融合させた舞台芸能であるが,踊りの要素が濃い部分はとくに踊り地と称し,最後の華やかな多勢の手踊りなどを総踊りともいう。また歌舞伎舞踊自体を江戸では踊と総称する場合も多い。…
…邦舞また日舞ともいう。西洋舞踊に対する語で,広義には日本で行われる舞踊として,古代の舞踊,伎楽(ぎがく),舞楽(ぶがく),能,民俗舞踊,歌舞伎舞踊,新舞踊等すべての舞踊の総称となる。しかし狭義では歌舞伎舞踊を指し,ふつう,これが一般的用語となっている。…
※「歌舞伎舞踊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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