日本大百科全書(ニッポニカ) 「芦屋道満大内鑑」の意味・わかりやすい解説
芦屋道満大内鑑
あしやどうまんおおうちかがみ
浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節。時代物。5段。竹田出雲(たけだいずも)作。1734年(享保19)10月大坂・竹本座初演。翌年の1735年2月京都・中村富十郎座で歌舞伎(かぶき)化された。和泉(いずみ)国(大阪府)信太森(しのだのもり)の白狐(びゃっこ)が安倍保名(あべのやすな)と契って陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明(あべのせいめい)を生んだという「信太妻(しのだづま)」の伝説が題材で、同系の古浄瑠璃、歌舞伎劇を集大成した作品である。初段~三段―天文博士加茂保憲(かものやすのり)の秘書『金烏玉兎集(きんうぎょくとしゅう)』をめぐる安倍保名と芦屋道満(あしやのみちたる)の相続争いで、保名の恋人榊の前(さかきのまえ)は岩倉治部らの陰謀により自殺する。悲しんで心狂った保名は恋人の小袖(こそで)を抱いてさまようが、榊の前の妹、葛の葉(くずのは)の介抱で本復する。岩倉の臣石川悪右衛門(いしかわあくえもん)は主人の野望に必要な白狐を狩るが、その狐(きつね)を保名が救う。四段(保名内、信太森)―保名は葛の葉と夫婦になり一子童子(どうじ)を設け、阿部野の里に住んでいたが、この葛の葉は白狐が化けたもので、6年後、真実の葛の葉が訪ねてくると、童子に名残(なごり)を惜しみ、「恋しくば尋ねきてみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」の歌を残して古巣へ立ち去る。
異類婚姻譚(いるいこんいんたん)の代表作で、四段目「葛の葉子別れ」が眼目。歌舞伎では狐と葛の葉姫の二役を早替りで演じ、歌を障子に書くのに左手や口を使う技巧をくふうした。清元(きよもと)の舞踊『保名』は、二段目「小袖物狂(こそでものぐるい)」の改作。なお、保名を襲う悪右衛門一味を奴(やっこ)与勘平(よかんぺい)が追い払う「信太森」は、狐が与勘平とそっくり同じ姿で出て悪人らを翻弄(ほんろう)するが、この役で初めて人形の三人遣いの形式が発明されたという。
[松井俊諭]