日本大百科全書(ニッポニカ) 「信用分析」の意味・わかりやすい解説
信用分析
しんようぶんせき
credit analysis
銀行などの金融機関が企業に対して融資する際に、その企業の債務返済能力の有無を知るために行う財務分析のこと。通常、銀行は企業が作成した最近年度の財務諸表および見積資金繰り表などの提出を受け、それに基づいて分析比率(たとえば流動比率や当座比率など)を算定することにより、企業の財務状況が健全かどうかを判定する。健全となれば、資金を貸し付けることになる。こうした分析は、19世紀後半にアメリカで始まり、1900年代にはアメリカの銀行家が融資をするにあたり積極的に用いられた。
信用分析の目的は、企業の資金返済能力の分析であり、その分析の中心は貸借対照表項目となる。分析する比率は流動比率や当座比率などが重視される。すなわち、流動比率は、短期の負債に対する企業の支払い能力をみるための指標であり「流動資産÷流動負債×100」で表される。それは、200%以上あれば健全であるとされ(2:1ルール)、銀行家によって重視された。また、当座比率は、現金・預金・受取手形・売掛金などの当座資産をもって短期の負債の返済能力をみるための指標であり、100%以上が望ましいとされる。なお、信用分析は企業の財務諸表に基づいて行われることから、財務諸表自体が適正なものでないと意味がないため、会計士の監査済みのものが用いられた。
信用分析は、その後、投資家の立場からの収益性分析にとってかわられたが、現在でも、企業の財務評価や貸付にあたっての判別の際には不可欠な指標となっている。また、単なる比率分析のみならず、指数法(各比率を合算した標準比率と実際比率の比較など)、趨勢法(すうせいほう)(基準年度の数値が各年度でどのように変化していくかをみる)などを使い、かつ、資産内容の健全性や企業の業歴や業界における地位などの定性的な評価と将来の資金計画や事業計画などをあわせて分析するなど、現代の経営分析は非常に総合的な方法となっている。
[中村義人 2022年11月17日]