翻訳|trusteeship
国際連盟の下で行われていた委任統治を受け継ぎ、これを改良して国際連合が設けた制度で、まだ十分に自立する能力をもっていない人民が居住する地域を、施政権者に指定された国が、国連の監督を受けて統治することをいう。施政権者は、信託統治地域を事実上自国の領域とほとんど同じ仕方で統治することを許されるが、統治の大綱は国連憲章と個別的な信託統治協定とによって定められており、そのうえ、統治の実態について国連の監督を受けなければならない点で、通常の領域に対する統治とは性質を異にする。すなわち、施政権者は、地域住民の政治的・経済的・社会的・教育的進歩、ならびに自治または独立に向かっての住民の漸進的発達を促進することと、人種、性、言語、宗教による差別なく、すべての者のために人権と基本的自由を尊重することを義務づけられた。また、監督の任務は総会と信託統治理事会とが担当して、施政権者の提出する年報を検討し、住民の請願を審査し、地域を定期的に視察する権限を与えられた。これを委任統治に比べると、一部の地域についてだけ課せられていた地域の独立を促進する義務が、すべての地域についていわれていたり、住民が直接に請願を行う権利を認めるなど、施政権者の義務の面でも、監督の方法に関しても進歩している。その反面、国連による平和維持の観点が重視された結果、委任統治では地域の軍事的利用が禁止されていたのに、それが許されたり、特定の地域を戦略地区に指定して、これを安全保障理事会の監督の下に置くことにより監督を緩和したのは、住民の保護の見地から問題であった。
信託統治制度の下に置かれるのは、(1)委任統治地域のうち独立したものを除く地域、(2)第二次世界大戦の敗戦国から分離される地域、(3)施政に責任を負う国が自発的にこの制度の下に置く地域、とされたが、(2)が適用されたのはイタリア領ソマリランドだけで、(3)の適用例はまったくない。かくして11の地域が信託統治地域となったが、通常の地域はその後次々に独立を達成し、残ったのは唯一の戦略地区であり、アメリカを施政権者とする太平洋諸島のみとなった。その太平洋諸島も、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、北マリアナ諸島、パラオとしてそれぞれ独立、あるいはアメリカとの自由連合を組み、94年、パラオ共和国のアメリカ信託統治の終了により、信託統治領はすべて消滅した。
[太寿堂鼎]
『小林泉著『アメリカ極秘文書と信託統治の終焉――ソロモン報告・ミクロネシアの独立』(1994・東信堂)』▽『矢崎幸生著『ミクロネシア信託統治の研究』(1999・御茶の水書房)』
国際連合憲章は〈人民がまだ完全には自治を行うに至っていない地域〉を〈非自治地域〉とする(73条)が,これは〈植民地〉とほぼ同じ意味の言葉である。信託統治は,信託統治協定という特別の協定によって,特定の非自治地域を国連の監督下におき,統治国または国連自身に施政させる制度である。
国際連盟の委任統治の性質は,〈住民の発達程度〉により,A式,B式,C式の3クラスに分類された。A式は旧トルコ領の中近東地域に適用されたが,同地域の住民は,独立国として仮承認を受けられる発達程度に達していた。事実,国際連合成立前後までに,同地域のすべては独立国となった。そこで,同地域を除く委任統治地域をどう扱うかが問題になったが,1945年2月のヤルタ会談で,米英ソ3ヵ国は,国連が信託統治制度を設定することに合意した。こうして,国連憲章は,信託統治の規定を包含することになった(第12,13章)。
信託統治のもとにおかれるのは,(1)委任統治地域,(2)第2次大戦の結果,敵国から分離される地域,(3)施政国が自発的にこの制度のもとにおく地域である(77条1項)。委任統治のようなA式,B式,C式の区別はなく,通常の統治地域と戦略地区の区別がある。(1)としては,南西アフリカ(ナミビア)を除くB式,C式の全地域(10ヵ所)が,(2)としては,旧イタリア領ソマリランドだけがあげられる。(3)としてあげられるものは,まったくない。しかし,これら11の信託統治地域は,つぎつぎに独立国となり,最後に残っていた戦略地区としての太平洋諸島(施政国はアメリカ合衆国)も1994年に信託統治を終えることになった(ベラウ(パラオ)が94年10月独立)。
信託統治を監督するため,国連総会およびその権威のもとで信託統治理事会は,(1)施政権者の提出する報告の審議,(2)住民からの請願の受理および審査,(3)信託統治地域の定期視察を行う(87条)。委任統治では(2)は受任国をとおして行われ,(3)は行われなかったから,信託統治では監督は強化されたことになる。なお,委任統治では統治地域の軍事的利用は認められなかったが,信託統治では,施政権者は,通常の統治地域さえも軍事的に利用できる(84条)。また,太平洋諸島のように,特定の地区は戦略地区に指定され,安全保障理事会の監督下におかれる(82条,83条)。ただし,戦略地区を通常の統治地域から区別する〈戦略的重要性〉とは,安全保障理事会が国連憲章第7章に基づく軍事的措置をとる場合に戦略的に重要なことをいうが,実際には施政国自身の戦略的重要性にすりかえられているという批判も強い。
→委任統治
執筆者:松田 幹夫
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世界の特定の地域に対して,国際連合の信託を受けた国家(施政権者)が,国際連合の監督のもとに,統治を行う制度(国連憲章第12章)。国際連合と施政権者の間に信託統治協定を結び,これに従って統治が行われる。施政権者からの報告の審議や視察,あるいは地域住民の請願の受理などのために信託統治理事会(同第13章)が設けられた。この制度は,国際連盟の委任統治を受け継いだものであり,当該地域の自治,独立へ向けての進歩,発達を促すことを目的とする。太平洋諸島のパラオ(ベラウ)の独立を最後に信託統治はなくなった。
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…しかし,とにかく国際組織が監督を行うという点で,委任統治は,従来の植民地統治にくらべて新しい制度であったと評価される。国際連合の信託統治は,委任統治を引き継いだ制度であるが,監督体制は強化された。信託統治【松田 幹夫】。…
…南アフリカ共和国やイスラエルに対して,制裁措置の一環として除名を求める主張もみられたが,適用例はない。
【機関と意思決定過程】
[機関]
国連の主要機関は,総会,安全保障理事会,経済社会理事会,信託統治理事会,国際司法裁判所,および事務局の六つであり,連盟の総会,理事会,事務局の3主要機関よりも増えている。主要機関のほかに,とくに国連総会や経済社会理事会のもとで設置された多くの補助機関が存在し,国連は極めて複雑な仕組みになっている。…
※「信託統治」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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