日本大百科全書(ニッポニカ) 「倫理憲章」の意味・わかりやすい解説
倫理憲章
りんりけんしょう
大学、大学院などの新卒・修了予定者の採用活動解禁日などを示す自主ルール。就職協定廃止後の1997年(平成9)から2013年(平成25)まで存在した。正式名称は「採用選考に関する企業の倫理憲章」。日本経済団体連合会(経団連)が加盟企業に対し採用活動を適正化するよう遵守を求めたガイドラインである。罰則規定はなかった。倫理憲章は当初、「採用選考活動の早期開始は自粛する」「大学等の学事日程を尊重する」といった抽象的内容が多く、具体的日程は「正式な内定日は卒業・修了学年の10月1日以降とする」と明記するのみであったが、その後、早期化しがちな就職活動時期を遅らせる方向で改定が繰り返された。ただ外資系企業やIT関連企業など経団連に加盟していない企業は対象外で、倫理憲章を遵守している企業も経団連加盟社のうち約6割にとどまっていた。このため2013年、安倍晋三(あべしんぞう)政権は成長戦略の一環として、学生の就職活動時期を短縮し学業に専念できる時間をより長くして、世界に通用する人材を育成できるよう経済界に要請。これを受け経団連は2013年、倫理憲章を廃止し、より拘束力の強い採用選考指針に改めた。
なお戦後の日本型雇用システムは新卒者の一括採用を前提としていたため、早期に優秀な人材を確保したい企業側と就職活動が早すぎて学業に支障が出るとする大学・政府側とのせめぎあいが続き、1953年(昭和28)に大卒者などの就職活動解禁時期などを定めた就職協定ができ、1997年に就職協定にかわる緩やかなガイドラインとして倫理憲章が制定された。その後も、2013年に採用選考指針に改められ、2021年には採用選考指針を廃止して政府主導の新ルールをつくる予定とするなど、就職活動時期に関するルールはたびたび改定されている。
[矢野 武 2019年3月20日]