形式的には独立している国家において,その政府が自国民の利害と願望に従ってではなく,むしろ他の特定の強国の意思に従って行動する場合,その政権を一般に傀儡政権と呼ぶ。とくに典型的なのは,軍事占領や植民地支配などの帝国主義的政策をとろうとする強国が,その地域の住民の中の協力者に政権を作らせ,それを政府として押しつける場合であり,これは独立性の外観を保つことによって国際世論やその地域の住民の感情に対してカムフラージュ効果をねらうものである。また,傀儡政権は,内戦の当事者の一方に強国が荷担するという形で樹立されることも多い。傀儡政権の具体的事例としては,第2次世界大戦中にドイツが作ったノルウェーのクビスリング政権,日本が作った満州国政府や汪兆銘の南京国民政府などを挙げることができる。またこの言葉は蔑称として戦後の国際関係においても用いられ,東側はアメリカの影響下にある小国の政府を,西側は東欧諸国をそれぞれ米,ソの傀儡政権と呼んだが,東欧諸国に対しては〈衛星国〉という言葉が用いられるほうが多い。なお,〈傀儡政権〉というのはあくまで論争的に用いられる蔑称であり,必ずしも現実を反映していない。それらの国の従属性の程度はさまざまであるが,他国の軍事占領下にあるといった例外的場合を除けば,外から押しつけられてまったくの操り人形のように動く〈傀儡性〉はむしろまれである。
執筆者:大串 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他国の意のままに操られている政権。形式的には独立しているが実質的には植民地同様の地位にある半植民地や占領下にある国家に、植民地支配や侵略、占領をカムフラージュするために樹立される。日本が中国侵略ののちつくりあげた「満州国」政府、蒙古(もうこ)連合自治政府、汪兆銘(おうちょうめい/ワンチャオミン)の南京(ナンキン)国民政府、また、太平洋戦争中に日本が占領した東南アジア各地(ビルマ―現ミャンマー、インドネシア、フィリピンなど)で樹立した政府などがその例である。また、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが占領したフランスのビシー政権、ノルウェーでのクビスリング政権などの例もある。第二次世界大戦後では、旧植民地ベトナムの独立を阻止するため、フランスが侵略戦争を行うなかで樹立したバオ・ダイ政権、ジュネーブ協定(1954)以後アメリカが南ベトナムに対する支配を維持するために樹立したゴ・ジン・ジエム政権などがその典型的な例である。
[土生長穂]
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